東京国税局の職員が妻に対して暴力をふるい大怪我をさせたとして傷害容疑で逮捕されたのは今年6月のこと。国家公務員による妻へのDV事案として広く報じられたため、ご記憶の方も多いことだろう。この東京国税局税務相談官、武藤静城(しずき)被告(逮捕当時59)に対する公判が現在、東京地裁立川支部で開かれている。
8月の初公判で起訴事実を全て認めた被告だったが、10月5日の被告人質問においては、涙ながらに反省を述べながらも「最初で最後の相手と私が勝手に思っていた女性の理想像との違いで暴力を振るってしまいました」と、妻に非があるかのような証言を繰り返した。さらに当初は自身のDVを隠すよう妻に言い含めていたことも明らかになった。
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「殺すぞ」「心臓をえぐり出してやる」
武藤被告は今年1月に50代の妻に対して、車の中で数十回に渡り顔面を殴り、鼻骨骨折を負わせたほか、今年4月には自宅で妻を蹴るなどして加療10週間の外傷性膵損傷を負わせたという2件の傷害罪と、今年5月に入院中だった妻にLINEのボイスメッセージで「殺すぞ」「心臓をえぐり出してやる」などと脅したという脅迫罪で起訴されている。
8月17日の初公判では「間違いありません」と起訴事実を認めた武藤被告。この時は勾留されていたが、10月5日の第2回公判では保釈されており、スーツ姿で弁護人とともに法廷にやってきた。白髪混じりで薄くなった頭髪に、眼鏡をかけて、伏し目がちに座る。妻に苛烈な暴力をふるい大怪我を負わせたうえに、その妻を脅迫したという激しさが微塵も窺えない。彼の逮捕はおそらく、東京国税局の同僚らも信じられない思いだったことだろう。
ところが被告人質問が始まると、暴力は妻の言動がきっかけだったと繰り返し、裁判官をも困惑させた。
公判で明らかになった証拠によれば、武藤被告と妻が交際を開始したのは昨年7月。半年も経たない同年12月ごろから妻に暴力をふるい始め、今年1月から激しさを増した。1月の暴力により鼻骨骨折の怪我を負った妻は、被告との別れを考えたものの「別れ話はするな」と脅されていたため、言い出せずにいた。当時、妻は病院には行ったが被告の指示により「空手の練習で怪我をした」と言わされたという。そのまま3月に婚姻届を提出した。
そして4月。自宅で武藤被告に暴力を受けた妻は、腹痛が治らないことから数日後に病院を受診。外傷性膵損傷との診断を受け、膵臓の3分の2を摘出した。このときも、1月と同じように「空手の練習で怪我をした」と説明した妻に、担当医師は疑念を抱いた。妻の身体には新しい痣だけでなく、古い痣も確認できたからだ。「DVの相談も受けている」と水を向ける医師に、妻はようやく、自身の怪我が空手の練習ではなく武藤被告の暴力によるものであることを告白し、事件が明るみになった。