映画『シン・ウルトラマン』が私に与えた影響は大きかった。たびたびウルトラマンに思いを馳せる。
ウルトラマンはなぜ怪獣たちと闘うのか。そもそもウルトラマンとは何者なのか。その究極の謎がわからない。それを知るため、七月開始の『ウルトラマンデッカー』を観ている。
地球人が太陽系に進出した近未来が『デッカー』の舞台だ。まるでクラゲかゼリー状の飛行物体スフィアに覆われ、火星コロニーと地球の交流はすべて絶たれる。スフィアとの闘いの中で、気のいい煎餅屋の青年アスミ カナタ(松本大輝)は光の巨人デッカーと接触して変身能力を得る。
スフィアの飛来目的も、知性の有無もわからない。しかしスフィアに寄生された怪獣はより凶暴化する。
スフィアとデッカー。彼らはなぜ生まれたか。その謎はわからない。そんなときNHKが六月に再放送した『ふたりのウルトラマン』の録画を何度も観る。
円谷プロが六六年に放映開始した『ウルトラQ』。つづく『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』でその才能を遺憾なく発揮した脚本家の金城哲夫と、同じ沖縄出身の同業者、上原正三の、華やかで悲惨な生涯を辿る感動的な名作だ。
以前、市川森一さんに金城さんってどんな人ですかと訊いた。間を置かず「一言でいって天才ですよ」と市川さんは答えた。
ドラマで観る金城(満島真之介)は、お洒落で明るくウィットに富んだ激情家だ。対して、同郷のウエショーこと上原正三はシニカルな現実主義者だ。
なぜウルトラマンは、宇宙の彼方からくるのか。そんな問いをスタッフが発した。「マレビト(客人)」と、ボソリ金城が呟いた。知的なスタッフは「折口(おりくち)(信夫)だね」と応じた。「ニライカナイからマレビトが来る」と続ける。
ニライカナイ。沖縄、奄美、先島諸島の神話に登場する海の彼方の理想郷、常世(とこよ)だ。そこから来た異人が地球を愛してしまい、地球人を救うために闘う。
光の国からやってきたウルトラマンとテーマソングに歌われる。そうだ、宇宙の彼方にあるニライカナイが光の国だと金城は確信して第一話を書き、『ウルトラマン』は大成功した。
遠い宇宙の果てにある「光の国」は、とことん琉球人の金城にはニライカナイだったのだ。そして円谷プロの経営不振で、思うように脚本に専念できなくなった金城は、本土復帰前の沖縄に帰郷する。
その後、沖縄でも反対派の多かった海洋博の演出を手がけたストレスと酒への依存で、金城は三七歳で亡くなる。二八年後に上原(平田満)は沖縄の金城家の亀甲墓で手を合わせる。
ウルトラマンの故郷は沖縄の海の彼方なのか。デッカーを観ながらよく思う。
INFORMATION
『ウルトラマンデッカー』
テレビ東京系 土 9:00~
https://m-78.jp/decker/