泣かせる役者、というのがいる。悲劇がうまいとか哀愁漂うというのではなくて、その人を見てると何か可笑しくて失笑したりしてしまうのだが笑ってるうちにじわっと物悲しくなってくるというような……ワキでチラッと「もの悲しさ」を見せることでそのドラマがグッとコクを増すような。

 そういう俳優の筆頭が、仲野太賀だと思ってるのです。仲野太賀が出てると、どうでもいいようなトンチキな場面でも涙がこみあげそうになる。仲野太賀がダメ男やクズ男であればあるほど、「こんなクズにも哀しさがある……」と胸を衝かれる。そういう描写があるわけではないのに! テレビじゃないが、映画『あの頃。』の仲野太賀は忘れられん。困った男の仲野太賀が最後病気で死ぬんですが、この世でいちばん泣かせる「困った死に男」は仲野太賀だと思わせた。

仲野太賀 ©共同通信社

 そんな仲野さんに、主役のドラマがドンと来た、『拾われた男』。

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 オーディションに落ち続けの男がいかにして個性派俳優になったのか、というあらすじ聞いただけですでに泣きそうだ。きっと困ったやつだけどいい味出した役者になって、でもなんかのはずみで死んだりするんだ、……と思い込んでいたらこれ松尾諭の実話エッセイだった(それも文春オンライン連載)。死んでない。

 だからというわけじゃないけれど、「ワキで泣かせる男」が、「真ん中ですったもんだの成功物語」を演じてみるとこれが不思議なほど泣けない。別に泣かせる話じゃないし、さえない男のドタバタぶりが異様にうまくて、「仲野太賀すげえ……」と思わせるからいいのだが。

 でも私は仲野太賀が出るなら「なんでこんなとこで泣きそうになってんだ私は……!」という気持ちを味わいたかった。

 それでやや落胆しつつも『拾われた男』を見ていたら、他にちゃんと用意されていたのだ、「泣かせる男」が。それも2人も。

 仲野太賀の幼馴染みで、先に東京に出てきてモデルやりたくてくすぶってる大東駿介、そしてレンタルビデオ屋のバイト仲間、映画監督になりたいがくすぶってる要潤。「夢ばっか追ってるテキトー男のハタ迷惑さ」と、「夢が叶わない男の滑稽さと哀しさ」が、もう、あふれんばかりなんですよ! そういえば要潤、朝ドラの『まんぷく』でも自分の好きな絵ばっか描いてる画家の役でなんかぐっとくる芝居してたなー。

 と、仲野太賀で得られぬ思いを大東・要で満たしているが、このドラマまだ先が長い。他にも泣かせそうな登場人物があちこちにちらばっているのだ。いやそこじゃなくて仲野太賀がやはりドバーンと泣かせてくれるのかもしれない。

 泣きたい人はぜひ(そういう話じゃないよたぶん)。

INFORMATION

『拾われた男』
NHK総合 火 22:00~
https://www.nhk.jp/p/ts/98XYGJ8N7K/