統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の被害者救済に向けた動きが国会でも強まっている。岸田文雄首相は10月17日の衆院予算委員会で統一教会について、宗教法人法に基づく「質問権」を行使することを明言。統一教会側は、20日に開いた記者会見で「誠実に対応する」と述べた。今後、政府が教団の実態にどれだけ迫ることができるか注目が集まっている。
「幸せな家庭づくり」を標榜する統一教会だが、現実には数多くの家族が引き裂かれてきた。妻や子が入信すれば、家族は必死に救い出そうとするが、それは決して簡単なことではない。「信仰を捨てれば、自分も家族も地獄に落ちる」と信じ込まされている信者は、ウソをつき、抵抗する。長年、統一教会問題を取材するジャーナリストの石井謙一郎氏は、そういう人々の葛藤を数多く見てきた。40歳で統一教会に入信した母親を救い出した家族の闘いを、石井氏がレポートする。
40歳で入信した母を脱会させた息子の証言
山上徹也容疑者の母のように結婚後に入信した女性信者は、「壮婦」と呼ばれる。母が入信した息子が語る。
「40歳で専業主婦だった母の様子がおかしいと、まっさきに気付いたのは父でした。付き合う相手が変わり、家にいる時間が短くなりました。明らかに疲れて、イライラしていました。
自分で会社を経営していた父は、必要な生活費だけ母に渡していました。母が自由に献金できる金額は限られていたため、食事が質素になりました。安くてカサがあるからか、冬瓜がよく出たのを覚えています」
脱会後にわかったことだが、それでも献金額は500万円に達していた。キャッシュローンのほか、息子たちの学資保険を解約。さらに、お金を貸してくれる信者を教会から4人も紹介してもらい、借りたお金を捧げていた。4年で脱会できなければ、被害はどこまで膨らんでいたことか。
「父から『脱会させたい』と持ちかけられましたが、僕がすでに勧誘されているかもしれないと考えて、探り探りだったようです。脱会支援をしてくれるキリスト教関係者を父が探し出し、一緒に相談に行きました。僕にはまだ、統一教会が反社だという認識がなかったので、最初はその人を信用していいのかもわかりませんでした。
脱会させなければいけないという気持ちがだんだんと固まったのは、本を読んだりして、統一教会が普通の宗教とは違う悪質なカルトだと知ったためです。母は被害者ですが、ほかの誰かに対して加害者になってしまう。食い止めなければ、という考えに至ったからです。それに、大学生だった僕は家から出てしまえば逃げられますけど、高校生と小学生だった弟たちは、いずれ入信させられるに違いありませんからね」