平昌オリンピックのスピードスケート女子500メートル金メダリストの小平奈緒(35)が10月22日、現役ラストレースとなる全日本距離別選手権に出場。北京五輪で銀メダルを獲得した高木美帆らを抑えて優勝し、有終の美を飾った。

 地元長野での引退レースは、切符が完売し、満員の中で行われた。金メダリスト、W杯34勝などの”絶対王者”としてだけなく、その人間性も、高い評価を受けてきた小平。彼女は、どのようなスケート人生を送ってきたのか。「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:「週刊文春」 2018年3月8日 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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平昌オリンピックの個人種目では初のメダルを獲得した ©JMPA

冬季五輪、栄光に至る険しい道のり

 日本勢が冬季大会史上最多となる13個のメダルを獲得した平昌五輪。高視聴率を連発し、脚光を浴びた選手たちだが、栄光に至る道のりは険しいものだった。

「夏季に比べて冬季競技は非常に厳しい状況。所属先がない中で五輪に出場する選手もいるほどで待遇改善が求められます」

 こう語るのは長野五輪で金メダルを獲得し、現在は解説者の清水宏保氏だ。そもそも、夏季種目に比べ冬季種目はお金がかかる。

 最も負担が大きいとされるフィギュアで五輪に出場した渡部絵美氏は、引退を決断した理由の一つが金銭面の負担だったという。

「靴はエッジ(刃)も合わせると1足10~20万円ぐらいで、年間2、3足は必要です。衣装もいいものを作ろうとすれば何十万円もかかる。さらに有名コーチにレッスンをお願いするとなると10分単位で2~3万円ということもある。振付をしてくれる先生には、今の時代だと1曲100万円くらいかかって来ます」

 スピードスケートも、

「世界を目指す選手の場合、道具代に遠征費も合わせて500~600万円、さらにマッサージなどのトレーナーを頼むとなると年間合計で1000万円はかかります」(清水氏)

「義に反する」と採用を決心した地元の相澤病院

 個人で金銀2つのメダルを獲得したスピードスケートの小平奈緒は、所属先探しに苦戦した。

「いくつか引き合いもありましたが、彼女にはどうしても譲れない条件があった。それは『世界一の指導者』と慕う信州大教授の結城匡啓(まさひろ)コーチの指導を受け続けること。スポンサー探しが難航していたところに手を差し伸べたのが、地元の相澤病院でした」(スポーツライター)

 相澤病院の相澤孝夫理事長が当時を振り返る。

「初めて会ったのは2009年。結城先生と一緒に面談に来ました。ウチに声をかけていただいたんだからそれに応えないと。言い方は古いですが『義に反する』と思い、心は決まっていました。彼女は真面目な性格なので『雇用された以上は病院で働かなくては』という気持ちもあったようですが、どうせやるなら徹底的にやったほうがいい、というのが私の考え。練習拠点の長野に住んでもらって、病院の仕事はしなくてもいい、と。彼女の気持ち次第ですが、今後も競技を辞めるまで二人三脚でやっていけたら幸せです」

 相澤病院では、職員としての給料に加え、スケートの道具代、遠征費、大会参加費、専属の栄養士の契約料と今年度は年間1500万円程度を負担。さらに、14年からの2年間のオランダでの留学中も給料を支払った。