いつになく行きっぷりが悪いオペラオーだが鞍上の和田竜二は落ち着いており「直線で勝負する」と末脚に賭けた。1番人気のアドマイヤベガが仕掛けると同時に同馬の左斜め後方から一番外を回ったが、このときアドマイヤベガに外に弾かれるとオペラオーのテンションが高まった。
「負けてたまるか!」――直線に入り先頭を走るオースミブライトが抜け出そうとした瞬間、内ラチより3頭分外からナリタトップロードが、同じく3頭分外からオペラオーが猛追する。それまでかなり外を回らされており、2000mプラスアルファの距離を走りながら上がりタイムは35秒2(トップタイ)。オペラオーが内の2頭をわずかに交わした。
勝ちタイムは2分00秒7。5年前に三冠馬となったナリタブライアンが記録した1分59秒0より1秒7も遅かったが、直線で見せた瞬発力は1頭だけ次元が違っていた。
「一体どれほどの距離を走ったのだろう」と、レース映像を見直すといまだにビックリさせられる。「外からテイエムオペラオー」という実況が、その迫力を物語っている。
この勝利は和田騎手にとって待望のGI初勝利となり、管理する岩元市三師にとっても初のビッグタイトル。生産した杵臼牧場にとっても初のクラシック制覇となり、中小牧場に夢を与えた。
馬主の竹園正繼氏にとっても初のクラシック優勝。わずか1千万円で取引された馬が追加登録料を支払ったクラシックを制したことで、個人馬主に大きな希望をもたらした。
「ラッキーな勝利」と報じるマスコミも
強烈な追い込みを見せたオペラオーは4連勝を果たしクラシック初戦を手にしたが、この勝利からしばらく、勝ち星から遠ざかることとなる。後にGI7勝を挙げる名馬となるが、皐月賞後は「荒れ馬場が向いた」「展開がはまった」など「ラッキーな勝利」と報じるマスコミも少なくなかった。
そうした評価を覆すのは古馬になってから。4歳時のオペラオーは5戦ほど勝利から遠ざかり、皐月賞以降、茨の道を歩まされてしまう。
数多くの試練を与えられることとなる和田騎手にとって、騎手としての成長の糧となる馬となるが、このときは試練が待ち受けるなど知る由もなかった。
1番人気アドマイヤベガは、弥生賞後に食欲不振に陥るなど体調がすぐれず、馬体重もマイナス12キロ。皐月賞を回避するプランもあったが、出走にこぎつけ3馬身以上離された6着。3着ナリタトップロードを含めた3頭が中心も、次走のダービーは混戦ムードとなっていった。
皐月賞後、“競馬の神様”大川慶次郎氏は「追加登録料を支払った馬がここまで走るとは驚きの一言。とはいえテイエムオペラオーは抜けて強いわけではなく全幅の信頼は置けない。安定感では一番強い競馬をしたナリタトップロードが上。馬体を立て直したアドマイヤベガも怖い」との評価を下していた。