通算成績は26戦14勝、7つのG1レースを制覇、獲得賞金は当時にして史上最高額の18億円超え。生まれた子供たちもさぞ走るだろうと思いきや、その期待を裏切ってしまったのがテイエムオペラオーだ。“世紀末覇者”はなぜ種牡馬として成功しなかったのか?
競馬ライター・小川隆行氏の新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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競走馬は血を継承するのも大きな役割だ。競走馬として、種牡馬として成功した代表例が史上最強馬ディープインパクト。父と同じくGI7勝を挙げたジェンティルドンナや無敗三冠馬コントレイルを筆頭に、58頭ものGI馬(2022年7月末現在)を輩出した。
ディープインパクト産駒の勝率は10%を上回っており(2022年7月末現在)、入着賞金は720億円にも上っている。1.00が平均値となる種牡馬の優劣を判定する計算式であるアーニングインデックス(産駒の総収得賞金÷産駒の出走頭数)÷(出走馬総収得賞金÷総出走頭数)では3.2という信じられない数値を残している。驚異的な遺伝子の継承は他に類を見ない。
種牡馬としてのテイエムオペラオー
さて、この別格さと反比例するのがテイエムオペラオーだ。ディープインパクトが三冠馬となった2005年に初年度産駒がデビュー。産駒338頭のうちGI馬は皆無、平地の重賞ウイナーも輩出されなかった。産駒総数338頭の入着賞金合計は24億円=ディープインパクトの30分の1である。産駒は芝で2194回出走、113勝を挙げ勝率は5%、アーニングインデックスは0.75と平均値を大きく下回った。
産駒は時計がかかるコース向きで、障害に強いスタミナタイプだった
出世頭は障害重賞を3勝したテイエムトッパズレ。2番手はダート戦で6勝を挙げたタカオセンチュリー。オペラオーのライバルだったメイショウドトウの松本オーナーもメイショウトッパー(芝1200mで5勝)を所有したが、338頭中138頭=産駒の4割が総賞金0円に終わった。
オペラオーを種牡馬として成功させたい、という竹園正繼氏の熱意もあり、2歳下のテイエムオーシャン(阪神3歳牝馬S、桜花賞、秋華賞)に初年度から3年連続で種付けされた。桜花賞と秋華賞を含むGI3勝馬との間に産まれた3頭は「10冠ベビー」と称され3頭を輩出したが、JRAで勝利を挙げたのはテイエムオペラドン(未勝利、障害レース3勝)1頭だった。
競走馬総合研究所の研究結果によると、オペラオー自身の心拍数は非常に低く、サラブレッドの平均値を上回る「強い心臓」を持っていた。これにより傑出したスタミナを武器として、春の天皇賞連覇を含むGI7勝を挙げた。そしてこの特徴が、長距離や時計のかかる馬場に向いた産駒を数多く輩出した。