文春オンライン

2022/10/28

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

Kはなぜ「ぼおるど」を襲撃したのだろうか

 後日、鑑定の結果、爆薬が不完全爆発したことが判明した。壁や床の煤はそのために生じたものだった。もし完全爆発なら、何名かの女性は確実に亡くなっていただろう。開店後1時間程度だったので、店には数組の客と、20人ほどのホステス、他に店長や数名の男性従業員がいた。結果的に12人の女性従業員が重軽傷を負った。

 事件を起こしたのは、現在の工藤會本流である田中組系の中島組組員K(当時33)だった。Kは紺色の作業着上下、ズック、手袋を着用し、黒色フルフェイスのヘルメットを被っていた。ぼおるどの入口付近には防犯カメラが設置されており、Kが店内に入るところと、爆発が起こった後、逃走を図り逮捕されるところがしっかりと映っていた。

 Kは走って逃げたが、店内にいた店の男性従業員ら数名が追跡し、店近くの路上で取り押さえた。Kはフルフェイスのヘルメットを被っていたため、この時に取り押さえることができなければ、工藤會の犯行であることすら特定できなかったかもしれない。

 Kは男性従業員に殴りかかるなど激しく抵抗した。そばにいた通行人も応援し、数人がかりで押さえつけ、ようやく逮捕することができた。Kを取り押さえた従業員2名もKから激しく殴られ負傷した。

 従業員らがKを取り押さえた直後、救急隊とパトカーの警察官がほぼ同時に到着した。そのときKは意識を失っていた。そのため、被害にあった女性従業員らとともに救急病院に搬送された。搬送後、Kの死亡が確認された。たまたま病院に急行した捜査員がKを知っており、犯人が工藤會田中組系中島組組員であることが判明したのだ。

写真はイメージです ©iStock.com

 Kはなぜ、ぼおるどを襲撃したのだろうか。

 事件の少し前まで、Kは工藤會野村悟会長(当時)本家の部屋住みをしており、ぼおるどとの個人的関係はなかった。死人に口なしで、Kを取り調べて工藤會上層部の関与を明らかにする道は断たれてしまった。しかし、仮にKを取り調べても、上層部の関与は一切自供しなかっただろう。ただし前述のように、前年には、ぼおるどで同じ中島組組員による威力業務妨害事件が起きている。

爆発現場の写真を報道機関に公開

 Kは、小倉北区で小売業を営む両親の次男として生まれ、兄は父と共同で店を経営、妹は看護師という普通の家庭に育った。Kの恋人からも事情を聞いたが、事件直前も特に変わったところはなかったようだった。

 Kの死因に関しては、さまざまな憶測を呼んだ。

 工藤會と親交のある人物などが「Kは自ら舌を噛み切って自決した」「あれは爆弾ではない。閃光弾(光るだけで殺傷能力のないもの)だ」などと主張した。「閃光弾」の根拠となったのは、一部の新聞に掲載された、事件直後の店内の写真である。その写真には傷一つないグランドピアノが写っている。テーブルやソファも整然と並んでいる。だがそれは前述したように、手榴弾がピアノなどから離れた店内奥で不完全爆発したためだったのだ。反論の意味で、異例のことだが、爆発現場の写真を報道機関に公開した。それが先ほどの写真である。

「舌を噛んで自決した」という声もあったが、舌を噛んでも簡単には死なない。噛み切った舌の断片がのどに詰まれば、それが原因で窒息死することはあり得る。しかし、Kの舌はちゃんとあった。そもそもKがその場で自殺する理由が考えられない。