心臓に負荷がかかり、命を落とすケースも
先ほど、SASで窒息死することはない――と書いたが、窒息とは別の理由で命を落とすことはある。代表的なのが心筋梗塞だ。
「呼吸が止まると、心臓や血管には強い負荷がかかります。連日連夜ダメージを受け続けていれば血圧は高止まりとなる。つまり、夜眠ることが心筋梗塞のリスクを高める行為になってしまうのです。事実、深夜や明け方の睡眠中に命を落とす“突然死”の中でSASが引き金となっているケースは少なくありません」
こうなると話は穏やかではない。対策が急がれる。
夫婦でも恋人同士でも構わない。隣で寝るべき人がいれば、呼吸停止やいびきの有無を確認してもらい、少しでも該当するなら検査を受けるべきだ。
同衾者がいない場合は、次に挙げるセルフチェックを試して、一つでも該当するなら医師に相談すべきだろう。
・十分な睡眠時間を取っているのに日中に強烈な睡魔に襲われる。あるいは疲労が抜けない
・自分のいびきに気付くことがある
・寝汗をかく
・肥満
・顎が小さい
・扁桃腺肥大や慢性鼻炎、副鼻腔炎(ちくのう症)がある
・口で呼吸している
・高血圧
・慢性的な頭痛持ち
こうしたケースで医療機関を受診すると、呼吸計測器を使った検査が行われる。専門の医療機関なら1泊入院で、そうでなければ測定器を貸し出し、自宅で装着して一晩眠って検査を行う。
睡眠中の呼吸状態と酸素飽和度の動きを確認し、一定の数値を超える呼吸停止が確認されれば治療の対象となる。
治療法は大きく2種類。軽度の場合は、下顎を前に出すような形で歯の位置を固定するマウスピースを使って眠る方法。これを装着すると、アントニオ猪木参議院議員のものまねをしているような感覚に襲われる。多くの人はこれを装着した時、「なんだこの野郎……」と言ってしまうと思う(上下の歯が固定されているので「ダーッ!」は言えない)。
このマウスピースを装着しても、見た目にはそれほどあごは突き出ていないのだが、肥満がなくて、あごが小さいことだけが原因の人なら、これで改善できることは多い。
一方、重度のSASの場合は、さらに大技が必要になる。CPAPという、ふとん乾燥機のような機械につながったマスクを鼻に装着し、半ば強制的に空気を送り込む方法だ。
「見た目は大掛かりですが、重症の人ほどCPAPによる改善の度合いも大きい。これを使って熟睡を経験してしまうと、もう手放せなくなる人が大半です」
斎藤医師によると、最近は旅行や出張にもCPAPを持って行く人が増えているという。
マウスピースもCPAPも、最初は違和感を覚えるかもしれないが、慣れてしまえば問題はない。
実は筆者も、昨年検査を受けたところ「軽度のSAS」と診断されて、マウスピースを作った。はじめの1週間ほどはあごが疲れて目が覚めたりしたが、すぐに馴れた。今ではすっかり馴染んでおり、マウスピースを付けたまま水も飲めるようになった。「なんだこの野郎……」は今でも時々言う。
「眠気くらいで大袈裟な……」と考えるのは危険だ。
「いびきくらいかかせてくれ……」と威張るのは命知らずだ。
放置して眠り続けていると、それが「永遠の眠り」になってしまうかもしれませんよ。