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《遺書公開》「どこか誰ひとりぼくを見てない場所に行きたい」16歳少年を自死に追い込んだ「長崎・キリスト教学校の闇」

『いじめの聖域』 #1

2022/11/03

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 政治, 教育

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 両親は息子2人の自主性を重んじ、勉強や進路、趣味に至るまで何らかの意向を押しつけたことは一度もない。本人が「やりたい」と言ったことを素直に応援してきた。

 家族間の関係性は極めて良好だった。大助さんは厳格さを感じさせず、息子とも気さくに接するタイプだったし、さおりさんも明るい性格で、家族とのコミュニケーションを何よりも大切にしていた。兄の敬くんは勇斗くんの死後、「彼が一番の親友だった」と私の取材に語るほどに弟と気が合った。

家族思いの優しい子がなぜ

 両親によると、勇斗くんは幼少期から聞き分けが良く、わがままを言ったり、親に反抗したりすることは滅多になかったという。保育園や学校でも常に優等生で、何か問題を起こしたことは一度もない。

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勇斗くん(写真:両親提供)

 学業成績も優秀で、海星高では最上位の進学クラスに入っていた。高校ではコンピュータ部に所属し、性格はどちらかと言えば内向的だったが、人なつっこいところがあり、小さい頃から特に年上の人に可愛がられた。他人を思いやれる素直さを持ち合わせていたため、男女の性別を問わず友人も多かった。

 毎年5月の「母の日」には、勇斗くんは必ずカーネーションの花束を買ってきて、さおりさんに手渡した。他にも家族の誕生日には毎回、プレゼントを用意していたという。無駄遣いをせず、ためていたお小遣いをこういう時に使っていたのだ。

 そんな優しい気性の持ち主だったからこそ、大切な家族や友人に心配を掛けまいと、誰にも苦しみを打ち明けられなかったのだろうか。客観的に見れば、遺書に記された「相談する人がいない」ような状況ではなかったし、「コミュニケーション能力もない」というわけでもなかったはずなのに。

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【厚生労働省のサイトで紹介している主な悩み相談窓口】
▼いのちの電話 0570-783-556(午前10時~午後10時)、0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前9時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)

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