「学校が設置した第三者委員会が約1年4カ月の調査の結果、息子の自殺の主たる要因を『同級生によるいじめ』と認めました。なのに、学校側は不服だとして受け入れてくれません」

いじめの聖域〜キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録〜』(11月9日発売)より、著者である石川陽一氏のまえがきの後半部分を紹介。いじめによる自殺によって16歳の勇斗くんを失った両親の思いとは?(全2回の2回目/前編を読む)

自殺現場で手を合わせる両親 

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勇斗くんの死の原因は「いじめ」

 絵に描いたように幸福で平凡だった一家にとって、勇斗くんの死はまさに晴天の霹靂だった。何が息子をそこまで追い込んだのか。当初、大助さんとさおりさんには全く見当がつかなかったという。遺書にわざわざ傍線付きで記されていた「そういうこと(リンクつける)」とは一体、何なのか。

 当たり前のように送っていた日常は、もろくも崩れ去った。愛息の死の真相を知りたいと願う2人は、やがて「いじめ」という答えにたどり着く。 

亡くなった勇斗くん(左)とお兄さん(写真:両親提供)

 勇斗くんの死が世の中に広く知られるようになったのは、2019年2月のことだった。大助さんとさおりさんは長崎県庁の県政記者クラブで会見を開き、カメラの前でこう訴えたのだ。

「学校が設置した第三者委員会が約1年4カ月の調査の結果、息子の自殺の主たる要因を『同級生によるいじめ』と認めました。なのに、学校側は不服だとして受け入れてくれません」

 第三者委の結論を学校側が拒絶するという前代未聞の事態は、地元メディアだけでなく、全国紙やテレビのワイドショーもこぞって取り上げ、センセーショナルに報じられた。

 2013年に制定されたいじめ防止対策推進法に基づき、子供が自殺して背景にいじめが疑われる場合、学校または学校の設置者には真相究明と再発防止が義務づけられている。その手段として一般的に用いられるのが第三者委というシステムで、これを否定することは現行のいじめ対策に関する法制度を骨抜きにする行為に等しいからだ。

 騒ぎが大きくなる一方で、学園は沈黙を貫いた。

長崎県・私立海星学園 ©杉山拓也/文藝春秋

 報道陣の取材には何も語らず、弁明のために会見を開いたり、積極的に声明を出したりすることもない。頭と四肢を引っ込めて甲羅の中に籠城する亀のように、ただ嵐が過ぎ去るのをじっと待ち、やり過ごそうとしているようだった

 大助さんとさおりさんの告発会見から約3カ月後、飽きっぽい世間の人々の記憶から勇斗くんの死が薄れ始めた頃に、海星高の別の生徒が学校の敷地内で自殺した。