文春オンライン

2022/11/03

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 政治, 教育

この学校は普通ではない

 共同通信の長崎支局で事件担当の記者をしていた私は、ここに至ってようやく事態の深刻さを悟った。立て続けに生徒が死を選ぶ学校というのは、やはり普通ではない。何が悲劇を繰り返す温床になっているのかを知るために、勇斗くんの遺族に連絡を取った。別の用事があって2月の会見には出席していなかったので、私の勇斗くんに関する取材はこの時に始まった。

 両親は私を含めてどんな記者に対しても親切で、たいていの質問には真摯に答えてくれた。「学校を息子の死と向き合わせたい」という気持ちが、そうさせたのだろう。私はその思いに少しでも応えたくて、2人が悩み苦しみ、もがきながら学校側と対峙する様子を記事に書き続けた。

 だが、学校側が態度を改めることはなく、事態はなかなか進展しない。時間だけがいたずらに過ぎた。いつからか、勇斗くんの自殺はマスメディア的には「終わったこと」のように扱われ、ニュースに取り上げられる頻度は激減した。

 気付けば、この問題にこだわっている記者は、私一人になっていた。後で聞いた話だが、遺族は当初、報道機関を全面的には信用していなかったそうだ。海星高がテレビや新聞に広告をよく出していたためで、裏で繋がっているのでは、という疑念を捨てられなかったという。

 だからなのか、取材に応じてくれる割には、資料の提供は慎重だった。いじめと自殺の因果関係を認定した第三者委の報告書も、見せてはくれるが「私たちの手から渡ったことが学校に知られたらまずい」とコピーは取らせてもらえなかった。記者が入手した資料の出元を他者に明かすことはない、と説得しても駄目で、私は同僚と3人がかりで、A4用紙64枚に及ぶ文書の全てをパソコンでワードファイルに打ち込んだ(報告書は後に学校側がホームページ上で公開)。

 付き合いが長くなるにつれて、少しずつ信頼してくれるようになったのか、遺族は2020年の春ごろ、「実は……」と、学校側や行政とのこれまでの会話をほぼ全て録音していたことを私に打ち明けてくれた。