──信者同士でどなたかが救いの手を差し伸べることはなかったのでしょうか。
菊池 私は子どもだったので事情はよくわかりませんが、母は何か役職についていたのか、いつも人前に立っていたので、弱音を吐くようなことはできないと思いこんでいたのかもしれません。父が信仰していないことに対して「どうして入信させられないの?」「ご主人が入信するように、私たちもお題目あげるから!」などと言われていたのは覚えていますが……。
「宗教によって母は救われていないので」
──今ふり返って、宗教を信じていたお母さまは幸せだったと思いますか?
菊池 母が亡くなった直後は、あんなに宗教に邁進してきたのにいいことが何もなく、むしろ宗教のために苦しむばかりに見えた母がずっとかわいそうだと思っていました。
でも『酔うと化け物になる父がつらい』を描いて、多くの方から同じような体験をして苦しんできたという感想をいただいた時に、「自死という形で子どもの前から姿を消すなんて、絶対にしてはいけないことをなぜしたの?」という母への怒りに変わりました。宗教によって母は救われていないので、そこは残念だったなと思います。
──お母さまに今伝えたいことはありますか?
菊池 一度この作品の連載が終了となり、文藝春秋さんで続きを描かせてもらえることになった時に、「個人が本当に苦しんだことをなかったことにしてはいけません」と言っていただきました。
これこそ、まさに私が伝えたかったことです。母のことも、「許す」「許さない」ではなく、私がこのマンガを残すことで、母が本当に苦しんだことをなかったことにせず、苦しんでいる誰かに届いて「あなただけじゃないよ」と伝えられたら、母の供養になるのかもしれないと思います。