カネのかからない組織運営が賛同を集めたが…
現在でこそ縮小傾向にある神戸山口組は、結成当初は勢いがあった。6代目山口組を離脱した「山健組」「宅見組」「侠友会」「池田組」「正木組」の5組織を中核とした13組織で結成され、6代目山口組から処分を受けてすでに離脱していた組織を吸収したほか、新たに移籍する組織もあった。
そもそも、分裂の大きな原因はカネだった。6代目山口組では、「直参」と呼ばれる2次団体を率いる直系組長は、警察当局が上納金と呼ぶ月の会費約100万円を納める慣習が続いていた。そのほか次第に盆暮れや毎年1月の6代目組長の司忍の誕生日には連帯して1億円や5000万円が贈られていた。一方で、神戸山口組では月会費が幹部は30万円、中堅で20万円、そのほかの若い衆は10万円と大幅にディスカウントされた。カネのかからない組織運営が設立の趣旨のひとつでもあり、多くの賛同を集めた。
しかし、次第に神戸山口組内でも様々な名目でカネの徴収が始まると不満が鬱積するようになり、再度の分裂の動きが水面下で渦巻いていた。そんななか、勢力減少の発端となったのが2017年4月に明らかになる、神戸山口組山健組副組長の織田絆誠を代表とする任侠団体山口組(現・絆會)の旗揚げだった。さらに2020年7月に豊富な資金力で知られた池田組が、翌8月には最大派閥の山健組が離脱を表明。そして、正木組は同月に解散する事態となっていた。
6代目山口組に対抗するための連合体構想が破断した理由
なかでも、山健組は井上が長年にわたり組長の座に就いていたが、2018年5月に中田浩司が継承している。つまり、中田は井上に対して反旗を翻したことになる。その後、山健組は2021年8月に6代目山口組へ復帰するが、神戸山口組にとっては最大派閥を失うだけでなく、対立する6代目山口組を利することとなった。
そして侠友会・寺岡の絶縁処分である。こうしたなか、神戸山口組宅見組組長の入江禎は、6代目山口組に対抗するために離脱した組織との連合体構想を描いていた。神戸山口組と池田組、絆會(旧・任侠団体山口組)との3者での協力体制を模索していたのだ。だが、この構想も破談することとなった。
その経緯について前出の警察当局の捜査幹部は、「入江の3者連合に井上が難色を示したようだ。その理由は、織田たちが(2017年4月に)任侠団体山口組を旗揚げした際に、痛烈に井上を批判したからだ」と解説する。