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元関脇・貴闘力が告白する“地獄の新弟子時代”「“いじめ免除券”の3万円を払えないといじめの対象に」「両手両足を縛られて尻をすりこぎで…」

『大相撲土俵裏―八百長、野球賭博、裏社会…相撲界の闇をぶっちゃける』#3

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 ちなみに歯を磨かずに降りれば時間の節約になるが、歯を磨いていないと「お前口くせえんだよ」と半殺しにされることもあった。なお、4時起きだというのに、前日はだいたい深夜2時頃まで先輩のマッサージをさせられている。当時は休みもなかったから、たまの休みになったらみんな大絶叫で大喜びだった。

 電話番がコール音を2回以上鳴らしたら新弟子は全員で正座を1時間させられる。1回鳴っただけで出ても早すぎるとしばかれるので、2回鳴った瞬間にパッと出る決まりだ。部屋にある電話は30人から40人に対して1台のみ。大事な電話があるときに限って先輩が電話を使っていたりする。もちろん譲ってくれなどと頼めるはずはない。

大相撲引退後、貴闘力はプロレスデビュー ©時事通信社

「いじめ免除券3万円」を払えないといじめの対象に

 最初の頃はちゃんこもひどいものだった。親方はちゃんこ代はしっかりくれていたが、誰もちゃんこが作れなかったので味はひどいものだった。安芸乃島関か私がちゃんこ長だと鶏ちりか豚ちりしか作れず、一度豆乳鍋を作ったときは貴乃花は絶賛してくれたが、親方は牛乳が飲めないので「このクソマズいの作りやがって」と罵倒された。大人数が集まれば、出身や好みもあって全員が満足することは難しいのだが、それにしたってよく怒られた。

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 当時の地獄は相当なもので、ある夜の出来事が今でも記憶に残っている。

 Tという力士は母子家庭でお金がなかったので、「いじめ免除券」の3万円を払えず、いじめの対象になっていた。

 夜、ふと目が覚めると、Tがいじめる先輩の前にちゃんこ番の出刃包丁を持って立っていたのである。私はすかさず止めに入った……ということはなく、その光景を寝ぼけながら見ていて、「殺してくれたら楽だなー」と思ったのが本音である。しかし、10分、20分とずっと立ちつくすままだったので、「ためらうぐらいならやめとけ」と諭した。

「そういう時代だから」では済まない悪しき風習

 最近も相撲部屋の暴行事件が問題になったが、表に出ている10倍はそういったことがあったと思う。ほとんどの力士が1年ほどで辞めていく理由がお分かりだろう。とにかくいじめが酷いのである。私が若い衆の時には、あんなに硬い土俵の上でバックドロップされたり首の骨を折ったりした人間も3人いた。どれだけ学生時代に鳴らした有望株でもコテンパンにされ、ついには稽古場から逃げ出す者も少なくない。

 私が先輩になってからは自分が強くなることのみに精いっぱいで、後輩をいじめる余裕もなかった。とはいえ、それは今だから言えることかもしれない。力士として結果を残せなかったら、引退後も商売がうまくいかなかったらどうなっていたことだろうか。

「そういう時代だから」では済まない、今も昔も完全アウトの世界である。なぜそういう仕打ちを受けていることを親方なり協会なりに言わずに我慢しているのかと思われるかもしれないが、悪しき風習が黙認されてきたことのほうが問題だろう。

大相撲土俵裏

大相撲土俵裏

貴闘力

彩図社

2022年9月27日 発売

元関脇・貴闘力が告白する“地獄の新弟子時代”「“いじめ免除券”の3万円を払えないといじめの対象に」「両手両足を縛られて尻をすりこぎで…」

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