「宮崎監督が突然(スタジオに)入ってきて」――1989年の映画『魔女の宅急便』のトンボを演じた声優・山口勝平さんの思い出を紹介。

 アフレコ現場で驚いた「宮崎駿監督の行動」とは? 山口さんによる初の書籍『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

宮崎駿監督は面白いおじさん? 『魔女の宅急便』トンボ役の山口勝平さんが当時の思い出を紹介 ©文藝春秋

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ジブリと山口勝平

 映画『魔女の宅急便』トンボは、僕が最初にオーディションで受かった役です。最初に世に出たのは『らんま1/2』なんですけどね。

 当時はジブリのアニメに出ることの意味すらよく理解していませんでしたけど、今から思えば最初からすごい作品に当たったと思います。

 ジブリ作品は『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』を観ていましたし、宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロ』は大好きでした。子供の頃だと、テレビで『アルプスの少女ハイジ』や『未来少年コナン』も観ていて。

 オーディションを受ける際にキャラクターのイラストや簡単な設定が書かれたキャラ表をもらうのですが、トンボのニカッと口を開けて笑う表情を見て、「あっ、やりたい」と思ったのをよく覚えています。当時まだ結婚していなかった妻が一緒に見て、「こういう顔をして笑う子なんだね」と言ったのが、けっこうヒントになりました。

『魔女の宅急便』のトンボ。イラストは山口勝平さん直筆のもの。

 アフレコは振り返ると、それなりに緊張はあったかもしれませんけど、楽しかった思い出しかありません。スタジオの中に虫が入ってきた時に、宮崎(駿)監督が突然入ってきて、輪ゴムを飛ばして撃とうとしたり(笑)。

 面白いおじさん…なんて監督のことを言ったらいけませんけど(笑)、そんなふうに当時は思っていました。演技に関しては特に要望はなかったですが、自分では何を悩めばいいかもわからない状態で、とにかく一生懸命やっていました。プレッシャーを感じる暇もなかった気がします。練習の仕方もわかっていませんでした。

 リハーサル用にもらったビデオが、線画で色はついてなかったけど、それ以外はほぼ完璧で、普通に「すごいな。面白いな。なんか得した気分」と思いながら観ていて(笑)。ビデオデッキもこれと乱馬のために頑張って買いました。