「何やってるんだ! お前がしっかりしないでどうする!」――声優としてまだ未熟だった20代の山口勝平さんのエピソードをお届け。『らんま1/2』で経験した録音監督の叱咤に、今も感謝し続ける理由とは?

 山口さんによる初の書籍『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)

声優・山口勝平さんのルーツでもある『らんま1/2』の思い出をお届け。イラストは山口勝平さん直筆のもの

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『魔女の宅急便』のオーディションに受かってから収録まで、半年くらい時間があって、その間に『らんま1/2』が決まりました。

『らんま』のオーディションは長かったんです。というのも皆さんもご存じ、早乙女乱馬は水をかぶると女になってしまうという設定だったので、配役もいろいろなパターンが試されていて。

 男の乱馬と女らんまを両方一人の声優が声を変えてやるか、声は変えずに演じ分けるか。ボイスチェンジャーを使うという話まであって、僕も女らんまもやりました。

 最後は5人くらいに絞られて。僕以外は全員女性の方でしたね。そして最終的に、僕と林原めぐみさんが男と女を別々にやる形になったわけです。

 その時期はちょうど、劇団でもいつもの小劇場よりは名前のある劇場で公演を打つ稽古期間だったんです。気持ち的にはそっちでワーッとなっていました。

『らんま』に受かったことも劇場で聞いたんですが、舞台が終わってすぐ、本番後の高ぶりもあって、一瞬「何のことだろう?」とわからなくて(笑)。声優の世界にまだ片足も踏み込んでないような状態で、オーディションに受かるという感覚もわかっていなかったんです。我に返ってから「あっ、あれか」と、信じられない気持ちになりました。

 放送が始まって、地元の両親も喜んでくれました。芝居をやりたいから東京に行くと言った時「5年やってダメだったら帰ってこい」ということになっていて、当時ちょうど5年目だったんです。僕自身もうれしくて、頑張って買ったビデオデッキで録画して、1話は何回も、それこそテープがすり切れるくらい繰り返し観た記憶があります。

林原めぐみさんから盗み、日髙のり子さんにすがり……

 プレッシャーはやっぱりありました。スタジオの中で、声優経験ほぼゼロだったのは自分だけ。それで主役をやらせていただくわけですから、みんなに迷惑をかけないように、もっともっとうまくなりたくて。

 林原めぐみさんがすごく達者な方で、戦って技を出すときの息づかいとか、動きのあるセリフなどは「そうやるんだ」と彼女の演技を見て盗んでいました。ほかの先輩たちのお芝居も観察して、自分でも試してみたり。