現場では最初、乱馬の許嫁のあかね役の日髙のり子さんが唯一知っている方だったので、不安なことがあると、わらにもすがる思いでのんこさんにすがっていました。
「今のセリフは大丈夫でした?」とか。僕は当時、のんこさんのことを大ベテランみたいに思っていましたけど、のんこさんだって実際は声優を始めて、まだそんなに経っていなかったんですよね。今考えたら、相当迷惑だっただろうと思います(笑)。
「お前がしっかりしないでどうする!」録音監督の叱咤
あと、録音監督の斯波重治さんが、僕がちょっと迷って演技をしていたり、こなれてないしゃべり方をしたりしていると、的確に指摘をしてくださいました。声優のことを何も知らなかった自分を育ててくれたのが、斯波さんだったんです。今でも斯波さんって聞くと背筋がピンッと伸びます。
僕はマイクの使い方もよくわかってなかったんですけど、「マイクを吹く」ということがあるんですね。バビブベボやパピプペポで息がマイクに当たると、ボフッて音が入ってしまう。1クール録ったくらいの格闘ペアスケートの回で、後に乱馬の名ゼリフとなる「あかねは俺の許嫁だ。手を出したらぶっ殺すぞ!」の「ぶ」で吹いていると、テストで斯波さんにダメ出しをされました。
ラストテストでも「まだ吹いているから気をつけて」と言われて、次が本番。斯波さんは流れを重んじて録る方で、基本的に本番中は芝居を止めないんですけど、僕がまた吹いてしまって、そしたら映像がパッと止まって、調整室から「何やってるんだ! お前がしっかりしないでどうする!」と怒鳴られたんです。めちゃめちゃ怖かった……。
でもどうしたらいいのかもわからなくて。そこで一度中断、休憩ってことになったのですが、スタジオを出ながら先輩方が皆さん無言の応援をしてくださっているのをひしひしと感じました。一人スタジオの中で「どうしよう? どうしよう?」と焦りながら、親父役の緒方(賢一)さんや山寺(宏一)さんからのアドバイスをもとに、とにかく思い切ってやってみることしかできず。次でOKが出た時は、すごくホッとしたのを覚えています。
その時のプロデューサーさんに後で聞いた話だと、初めて声優をやっている子にあんなに怒鳴ったら、もうできないんじゃないかと思ったと。でも、斯波さんは「あの子は怒鳴っても大丈夫。どうです? 自分が見つけたんだ」とうれしそうにおっしゃったと聞いて、なんかすごくうれしかったですね。