「僕が満足した乱馬はまだ1本もやってくれない」
あれこれありながらも、『らんま』はずっと楽しかったです。全部で161話かな。残り3回になった時、斯波さんと帰りの電車で一緒になって「あなたはいい意味でも悪い意味でもうまくなった」と言われました。「悪い意味」は多分、クセが付いてきたということなのかなと思いました。
3年くらい経って、テクニカルな技術も増えてきたけど、同時にそれが邪魔もするというか。大まかには「良くなった」という一方で、「僕が満足した乱馬はまだ1本もやってくれない」とも言われました。160回近く録ってできなかったことを、残り3回でできるわけはありませんけど、僕はそれを斯波さんからのエールだと受け止めました。その言葉があったから、常に現状に満足することなく、まず「自分がうまいわけがない」と思いながら、今もやれています。
早乙女乱馬は、自分が演じた中で最も大切なキャラクターです。人間味にあふれていて飾らないところがすごく好きなんです。乱馬以降、僕の中で少年役をやっていくに当たって、「カッコよく演じない」ことが軸になっていきます。カッコよく演じるのではなく、結果カッコよければいいだろう、という感覚です。
後に同じ高橋留美子先生の『犬夜叉』を演じた時に、犬夜叉のほうが半分妖怪で荒っぽい感じがしてたんですが、演じてみたら実は根はとても真面目。比べて乱馬はふざけたヤツだったなと(笑)。
女に変わるのがイヤだと言いながら、女の強みもわかっていて、途中から武器にしている。意外と自分がモテることも自覚している。乱馬のそういうズルいところも、すごく好きです(笑)。自分が年を取るほど、乱馬のことが愛おしくなっていきますね。
演じてきたキャラクターにはすべて自分の持っているものを切り出し、同じように愛情を注いで役作りしているつもりです。それでも、やっぱり乱馬は一つ別のところにいる感じがします。大げさに言えば、僕の人生が終わるときにも、一番に思い浮かべる役だろうなと。それくらい自分にとっては代表作。声優のスタートが乱馬で本当に良かったと思っています。
『らんま』が始まって1年くらい経った時にバイトは辞めました。まだ生活はキツかったんですけど、自分は声優としてやっていくんだと、腹をくくることにしたんです。
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