テクニックはなくてもピュアで素直な演技
収録は2日間でした。現場では、スタジオのどこにいたらいいのかわからず、先に収録が始まっていた『らんま1/2』でも共演していたキキ役の高山みなみさんにずっと引っついてました(笑)。
もう30年以上前になりますけど、トンボのセリフはほぼそらんじて言えます。特に印象的なのは、トンボが最初に登場したところですね。
警官に怒られているキキを助けるために「泥棒!」と叫んで、「泥棒って言ったの、僕なんだぜ。君、魔女だろう? 飛んでるところを見たんだよ」って、初対面のキキにどんどん話しかけて。
キキが「失礼よ!」と飛び去った後の「カッコいいー」と言った時の表情も、すごく覚えています。
自転車をこいで「蹴って!」のシーンも。
ジブリアニメに求められるもの
トンボは本当に天真爛漫でしたけど、そこを計算してやれるほどの技術は、当時の僕にはありませんでしたね。
今『魔女の宅急便』でトンボを観ると、素直にかわいいなと思います。
まだ声優としての山口勝平の輪郭が出来上がっていない状態で。自分で言うのも変ですけど、ただただピュアな素材という感じがします(笑)。
それがジブリのアニメ、宮崎監督の作品には合っていたんでしょうね。2〜3年声優をやった後で、山口勝平のスタイルみたいなものがある程度できてからオーディションを受けていたら、多分受からなかった気がします。
テクニックは全然なくても、素直に伸び伸びと演じている。一時はそんな自分の演技が恥ずかしくて、『魔女の宅急便』を観られないときもありました(笑)。
今はもう、自分の子供か孫を見るような感覚です。
この作品と『らんま1/2』なしでは僕は声優のスタートを切れなかったので、本当に恵まれていました。
公開されてから、妻と映画館に観に行きました。大きなスクリーンに自分の名前が出た時は、やっぱり高揚しましたね。劇団の先輩たちも観に行ってくれて、もう完成した作品なのに「セリフを間違えないかソワソワした」と言われました(笑)。