「そういう人もいるかもしれないけど、私の周りでは、そういうの枕営業っていう認識はなくて、いろんな男性とお付き合いして経験を積ませてもらうって感覚かな。Hすることで、自分じゃ行けないような会員制のホテルとかレストランとか旅行とか行けて、バックステージとか入手困難なコンサートにも行けて、ヘリとかクルージングで色んな景色見せてもらって。その結果仕事までもらえたらそれはそれでラッキーだけど、仕事と引き換えにカラダを差し出す、みたいな考えだと、芸能界にいたら病んじゃうんじゃないかな。セックスなんて、ほんと挨拶みたいなもんだよ。挨拶しただけで仕事くれとか、ありえないでしょ。可愛がってもらう方が大事だと思うんだけど」と笑って八重歯を覗かせた。
「お小遣いの額はどうしようかな、2でもいいんだけど」
なんて、謙虚な数字を言ってくる。「Gカップバスト」「24歳」「グラビアアイドル」というスペックなら、平気で8とか言う女の子もいそうなのに。
「それじゃあ、いつものギャラ飲みとかわらないんじゃないの?」と聞いたら、「それはそれ、これはこれ。出会いが増えればそれでいいかな」と、手元のアイスティーに視線を落として微笑んだ。なんだかちょっと、語尾に諦めているようなニュアンスが感じ取れた。少しだけ、投げやりな言いかたのように聞こえたので気になった。
Mちゃんのモラトリアム
ギャラ飲みにしろ、交際クラブにしろ、お金はある程度コンスタントに稼げているから、男性が持っているお金よりも、その男性が持っている人脈やバックグラウンドによる恩恵を受けたいということなのだろうか? 今はグラビアアイドルをしているけれど、ずっと芸能界にいようと思っているのだろうか? グラビアアイドルを足がかりにして、いつかは女優になりたいとか思っているのだろうか? お金持ちの彼氏を見つけて、芸能界を引退しようなどとは考えないのだろうか? 仕事をもらうより可愛がってもらう方が大事って言ってたけど、可愛がってもらうその先には一体何があるのだろう?
「Mちゃん、夢ってあるの?」
もしも、明確な夢があるなら。それを男性に伝えた方がステップアップして行きやすいかもしれない。
「う~ん……ほんとは、ちょっと、わからないんだ」
急な質問に不意を突かれたのか、それがMちゃんの本音かな、と思った。
「あ、そうか、それで、愛人?」
面接の最初に、Mちゃんが「ギャラ飲みでギャラはもらえるけど愛人のお誘いは滅多にされない」と言っていたな、と思い出す。裏を返せば、愛人のお誘いが欲しいということではないだろうか。Mちゃんは、彼氏はいないのだろうか。いなさそうだけど、なんだかちょっと聞きにくい。
「……誰かの愛人になって、夢を考える時間が欲しいかな」
Mちゃんが、つぶやいた。
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