「主文 原告の請求を棄却する」

 開廷早々、中尾彰裁判長が言い渡した。原告とは、財務省の公文書改ざん事件で4年前に命を絶った近畿財務局職員、赤木俊夫さんの妻、赤木雅子さん。改ざんを主導した当時の理財局長、佐川宣寿氏を訴えた裁判が提訴から2年8か月にして一審判決を迎えた。大阪地裁202号大法廷、満席の傍聴席の最前列にいた筆者は、しばし脱力感にとらわれた。

夫の形見のマフラーを巻いて判決に向かう赤木雅子さん

負けるだろうと思っていたから、主文は意外ではなかった

「やはり、全面敗訴か……」

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 無論ある程度は覚悟していた。裁判で雅子さんが求めた、佐川氏とその部下だった財務官僚たちの尋問を、中尾裁判長がすべて退けたから。半年前のあの時、事実上敗訴は決まったのだが、それにしても訴えがまったく認められないとは……。

 そこで筆者ははっと我に返った。赤木雅子さんはどんな表情をしている? それを見届けるために自分はここにいるのだ。左手の原告席に目を向けると、雅子さんは代理人の松丸正弁護士と生越照幸弁護士の間に座り、判決理由を説明する中尾裁判長をじっと見つめている。マスク越しだが表情は変わらないようだ。その時、何を思っていたのだろう?

「負けるだろうと思ってましたから、主文は意外ではありませんでした。続けて裁判長が理由を言いましたよね。民事裁判は普通、判決は主文だけで理由は言わないと聞いていたので、きっと私の訴えを受け止めてくれるような部分が理由にあるから言ってくれるのかな、と期待したんです。

届かなかった弁護団の訴え

 でも難しい法律用語は私にはわからないじゃないですか。いいこと言ってるようには思えないけどどうなんだろう、と思っていたら、横で生越先生が『はああ~』っと深いため息をついたんですよ。それで『あ、やっぱり訴えは何も認められなかったんだ』とわかったんです」

 国家公務員が職務上行った行為は国が賠償責任を負い、公務員個人に賠償を求められないという、最高裁の古い判例がある。これに対し弁護団は訴えた。