文春オンライン

2023年の論点

信用度が「低い」とされた人を強制収容…新疆ウイグル自治区統治「職業訓練」の過酷な実態

信用度が「低い」とされた人を強制収容…新疆ウイグル自治区統治「職業訓練」の過酷な実態

2022/12/30

source : ノンフィクション出版

genre : ニュース, 社会, 国際

 2012年に発足した習近平政権は、「テロ」への対応策として、後手の対応ではない、先制攻撃を指示するようになる。「反テロ人民戦争」をスローガンに、「テロ組織」の撲滅を進め、冤罪、巻き添えも含む多くの「戦果」を挙げた。2015年には、反テロリズム法が制定された。そして2016年、新たに新疆ウイグル自治区党委員会書記に陳全国という人物が就任した。

漢人を「親戚」として割り当て

 陳全国がもたらした政策で悪名高いのが、親戚制度である。親戚制度とは、漢人を主とする公務員を「親戚」と称させて、現地の民族の各家庭に割り当てる仕組みを指す。2018年9月までに新疆全土で約110万人以上の政府職員が約169万戸の「親戚」となったという。

「親戚」をつうじて、民族団結の理念を現地住民に広めること、貧困家庭の就業を支援することなどを目的としていたといわれる。しかし現場では、「親戚」の傍若無人ぶりが、民族間の憎悪を生む悪循環を生んだ。「親戚」に同衾(どうきん)を迫られて自殺者が出たとか、孫娘を守るために老人が「親戚」を殺したといった話も、枚挙にいとまがない。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

「職業技能教育訓練センター」の恐ろしい実態

「親戚」たちが集めた各家庭の情報は、顔認証システムやスパイウェア・アプリなどの情報とともにシステムに集積され、人々の信用度の判定に用いられたとみられる。その結果生じたのが、信用度が低いとされた人を「職業訓練」を名目に施設に強制収容する、前代未聞の政策であった。

 流出した文書によれば、産児制限を超えた出産が特に多い理由であったとされる。違法にたくさんの子供を出産させていたことが、共産党の政策よりイスラームの伝統的な価値観を優先させていることの現れとみなされたのであろう。収容者数は100万人以上ともいわれるが、全貌は今も不明である。

 収容施設は「職業技能教育訓練センター」と呼ばれ、職業訓練を名目にしているが、目的はそれだけでない。施設に招待されたBBCの記者の報道によれば、中国語(漢語)の教育および中華民族共同体意識の鋳造(確立)といった再教育が行われている様子が確認できる。元収容者の証言からは、成績を下げ続けた人は弾き落とされ、その後どうなるかわからない、という恐ろしい実態も指摘されている。職業訓練の名のもとに、まっとうな中国人に生まれ変わらせる、人間の改造、同化が行われていると考えられる。