9割以上の病院で、抗がん剤治療の「初回は入院」
──えっ……。半分くらいですか?
勝俣 9割以上です。最近は、通院での抗がん剤治療が増えているように言われていますが、日本だと「初回は入院」が慣習になっている病院がまだまだ多いのが現状です。
通院でできる抗がん剤治療を、当たり前のように入院させて行っているのは、先進国では日本だけですよ。
──なぜ日本は入院治療が主流なんですか。
勝俣 医者も患者さんも、その方が安心するからでしょうね。抗がん剤の副作用をマネジメントできる腫瘍内科医がいない病院では、急変に対応できる入院治療の方が医者は安心ですから。実際は、入院の場合もほとんど問題は起こらないのですが、「抗がん剤で入院数を稼げるから」「収益が減るから」と外来治療に踏み込めない病院の事情もあるようです。
患者さんで「最初は入院の方が安心」とおっしゃる方もいますが、それは医療者側の説明不足だと思います。きちんとオリエンテーションを行い、外来で治療できることを説明すれば、ほとんどの患者さんが納得して治療を受けてくれます。
患者さんの生活の質(QOL)を大事にしたい
──入院より外来治療をすすめるのは、どうしてですか。
勝俣 患者さんの生活の質(QOL)を大事にしたいからです。特に、進行がんの患者さんの場合は、治療を続けながら、いつも通りの生活を送ることが大事です。入院で抗がん剤をやると、確実にQOLが下がるのは分かりますか? だって入院したら、一日中「病人」扱いですよ。自由はきかないし、好きなご飯は食べられないし、夜9時には消灯です。普段、夜9時に寝ますか? 寝ないでしょ。それに、外来なら、仕事を続けながらでも治療が受けられます。
──入院が、仕事継続の妨げになる?
勝俣 入院治療は、働きながらがん治療を続けたい人にとっては、負担が大きいですよね。外来なら、有給を少しずつ消化して治療にあてることもできますが、「入院が決まりです」と言われてしまえば、患者さんは逆らえない。そこでたとえば1か月有給を使ってしまうと、退院後、通院のための有給がなくなってしまう。最悪、辞職せざるを得なくなってしまいます。最初から外来で行えば、「治療のために、仕事を辞める」という悲劇は減ると思います。
──がんや、抗がん剤に対して、イメージを変える必要がありますね。
勝俣 その通りです! 「抗がん剤治療は入院でしかできない」「がんになったら、仕事ができなくなる」など、世間には、本当に多くの偏見や誤解があります。
何度も言いますけど、抗がん剤治療を受けていても、仕事は続けられます。医療者側だけの判断で一方的に決めるのではなく、患者さんの価値観を大事にしながら、一緒に治療を考えていきたいと、いつも思っています。
写真=平松市聖/文藝春秋
(#2に続きます)
かつまた・のりゆき/ 1963年生まれ。富山医科薬科大学卒業。国立がんセンター(2010年より国立がん研究センター)中央病院に約20年間勤めた後、2011年に後進の育成を志して日本医科大学武蔵小杉病院へ移籍。現在、同病院で腫瘍内科教授を務める。ハーバード大学公衆衛生院への留学経験を持つ。著書に『「抗がん剤は効かない」の罪』、『医療否定本の嘘』など。