新里 配属直後に「これが君の担当書籍だ」って、リストを渡されるんです。絶版になっていない銘柄だけで800冊ほどありました。そのリストを眺めて、何となく『世界の中心で、愛をさけぶ』というタイトルが気になって。
――まずはタイトルに惹かれたんですね。
新里 それまで小説を読む習慣がなかったので、柔らかく読みやすそうなタイトルに親しみを感じたのかもしれません。「どんな小説だろう、俺にも読めるかな」という気持ちでした。その足で担当編集者がいるフロアに行って、「この本を読ませてもらえませんか」とお願いして貸してもらって、家に持ち帰って読み始めたらあっという間に読めてしまった。
――感動した、という感想だったのでしょうか。
新里 柴咲コウさんがこの本の帯に「泣きながら一気に読んだ」という推薦文を寄せていたんですが、僕の場合は泣くという感じではなくて。柴咲さんは僕でも知ってるくらい人気があったので帯のコメントも効きそうだし、すごく凝った装丁からとにかく編集者が丁寧に作った本だということが伝わってきて、なんだかいいなと思って。
売り上げデータも見てみると、その時点で重版が2回かかっていて、累計1万2000部。売上率もいい一方で在庫がほぼなく、このままだと数年後には絶版になりそうな状況でした。
「売れる」と確信した瞬間
――「知る人ぞ知る良書」という状況だったのですね。
新里 そうなんです。例のミリオンセラー先輩に「珍しい店で売れているね」と言われたので調べてみると、全国の数ある書店のなかでも「山下書店渋谷南口店」で一番売れていて、その次が「丸善ブックメイツ横浜ポルタ店」。どちらもいわゆるベストセラーをたくさん売ることで知られる大型書店ではありませんでした。新入社員でたいしてやることもなかったので、まずはその店に行ってみようと。
山下書店渋谷南口店を訪れると、ひときわ目立ついい場所に『世界の中心で、愛をさけぶ』を置いてくれていて。発売から1年以上経ってもこつこつ売り続けてくれている書店員さんの心意気を感じたんですよね。さらに丸善ブックメイツ横浜ポルタ店に行ってみると、本の横に印象的なポップが立っていたんです。「渋谷で女子高生に売れてます」と書いてあり、それを見た瞬間に「この本は売れる」と思いました。
というのも、僕の大学時代はコギャルブーム全盛で、彼女たちの全能感がうらやましかった。世の中はコギャルを中心に動いていて、彼女たちがかわいいと言った商品が売れて、ブームも彼女たちが作っていた。そのときの感覚が、そのまんま書かれたポップだったんです。渋谷の女子高生がこの本を読んでいるなら間違いなく売れるだろうと、この段階で確信に近いものはありました。
そこで手ごたえを感じて、すぐに3000部の重版をかけました。ちょうどこの頃、例の先輩に「この本いくつ売れると思ってるの」と聞かれて、「100万部売れると思います!」と即答したらしいんですよね。まだ累計1万5000部でしたが(笑)。
――重版した後の反響はいかがでしたか?