新里 当時は「新入社員がたまたま発見した」というストーリーに注目が集まりましたが、それよりも、長くいい場所や棚で売り続けてくれた書店員さんが何人もいたからこそのヒットだったと思います。その人たちがいるお店との縁は、映画化が決まってミリオンを突破した後もすごく大事にしていましたね。
一方で、書店を相手に喧嘩したこともありました。売り込みをかけた最初の頃、「けっこう売れたのに、確かに在庫がないね」と注文してくれる人もいれば、「読んだけど面白くなかった」と言って1冊も注文してくれない人もいたんですよ。売れた後、そういう書店から100冊注文が入ったときに、0冊で回答したこともありました。大事な取引先に失礼だと上司からかなり怒られたのですが。
そういう偏屈なところも含めて、若くて生意気でしたね。いまだったら「面白くないって言ってごめん。やっぱり売れたね」と謝られたら、「でしょ」とか言って、いい棚を融通してもらうと思います。
元新人営業マンの現在地は…
――ヒットから20年が経ちますが、新里さんにとって『世界の中心で、愛をさけぶ』はどんな作品ですか。
新里 新入社員時代にあれほどのヒット作に携われたのは、すごく幸福なことでしたね。
尊敬する先輩に「売れることを体験した人は、また売れるものに巡り会える。売れることを知らない人は、どんなに頑張っても永遠に売れるものを作れない」って言われたことがあるんです。厳しい言葉ですけど、なるほどと思う部分もあって。たしかに「売れる」という体験から学ぶことは多いですし、あれ以上のヒット作にもう一度携わりたいと思うと、自然と売るための方法を深く考えるようになりますから。
――その後の20年で、どのようなお仕事をされてきましたか?
新里 営業としては、入社2年目に担当した『いま、会いにゆきます』(市川拓司 著)もミリオンセラーになりました。この作品が映画化されたときも、主題歌の「花」(ORANGE RANGE)をカラオケで散々歌わされました(笑)。
いまは「週刊ポスト」編集部に在籍しながら、書籍の編集も担当しています。編集者としては『下町ロケット』(池井戸潤 著)を文庫から担当させてもらって、100万部を超えた時はすごく嬉しかったです。