スカートをはいて出社するようになって会社側に追い詰められていく
――この時代に、漫画編集部に女性編集者がいなかった、というのは驚きでした。
藤野 あの会社はそうでしたね。メインが青年誌だったので、それでいいと思っているようでした。編プロの人やフリーの女性はいましたけれど。青年誌でも他の会社はまた違ったのかもしれません。
――そんななかでも、小笹さんは違う部署やフリーの女性と公私にわたって仲良くなっていく。そういう仲間がいたというのがいいなと思って。少しずつ女性の服装に近づけていく小笹さんを、女性の方たちはすんなり受け入れていきますよね。
藤野 そうですね。仕事が終わったあとよく飲み会をやっていたから仲良くなったんでしょうね。むしろ、そのグループに守られていた感じがあります。そうじゃなければ孤立していたと思います。
――そして小笹は笹子になっていく。藤野さんのことを何も知らない読者が読んだら、最初は小笹と笹子が同一人物だと分からずに、途中までどういうことかなと思いながら読みそうですね。
藤野 連載の最初のうちには同一人物だと書いていないので、S町さんがあらすじを書く時、「笹子は小笹って書いていいんでしょうか」って言うから「まだどうなるか分かりませんよ。違うかもしれませんよ」って言ったんですけれど(笑)。
――違うかもしれなかったんですか(大笑)。でも、スカートをはいて出社するようになったことで、小笹さんは会社側に追い詰められていくんですよね。私、藤野さんが出版社を辞めなくてはいけなくなった理由を知らなかったので、「そんなことで!」と怒りを感じました。そこは本当に「残酷物語」だなと思って。
藤野 キュロットのような服ならよくて、スカートをはいていったらダメだという。組合ができても「かばわない」と言われたぐらいだし、当時はそういう意識だったみたいです。ユニオンみたいなところに電話はしたんですけれど、「ちょっと何を言われているか分からない」みたいな反応で。「会社にはクビにする権利があるから」と言われたという。
自分が思うままに生きたらどう反応されるのか見てみたい気持ちもあった
――でも小笹さんというか、藤野さんはその理不尽に屈せず服装を変えなかった。
藤野 途中からはどうなるのか見てみたいっていう気持ちがちょっとありました。自分が思うままに生きたらどういう反応をされるのか、観察するような気持ちというか。半年以上くらいは「服装を改めなさい」と言われ、「自分では変えないので、クビだと思うんだったらしてください」っていうことを繰り返していました。辞表も自分では出しませんでした。でも結局、実際はそうではなかったらしいんですけれど、懲戒免職だと言われて辞めましたから。それで、自分はもう会社で働くというのはできないんだと思って。という話をするたびに毎回、当時を思い出して、クビになったような気がしてしまうんですが……。
――思い出させてしまってすみません……。でもよく戦ったと思います。辞めてどうするかとなった時に、すぐ小説を書くということは浮かんだんですか?
藤野 他で働くとなっても同じことの繰り返しになりそうだったので、そのままでやっていけそうな場所がないかなと考えた時に、フリーでやるのがいいなと思ったんです。