作家の笹子と、80年代に漫画編集者として働く小笹一夫の日常が交互に語られてゆく
――新作『編集ども集まれ!』(2017年双葉社刊)は、自伝的小説ですよね。漫画編集者だった頃のことを書いてほしいと依頼された作家の笹子が、勤めていた町や漫画ゆかりの場所を取材する様子と、1980年代、出版社に就職した小笹一夫が漫画編集者として働く日常が交互に語られていきます。でも、ご自身から自発的に「書きたい」と言ったわけではないとうかがっておりますが……。
藤野 むしろ、ずっと書かずにいたし、書かずに終わるんだろうなと思っていました。この本の前に『D菩薩峠漫研夏合宿』(15年新潮社刊)という、自分の高校時代の漫研の話を書いたんです。それももともと書く気はなくて、どうしても高校時代のことを書いてほしいという依頼があり、ちょっと悩みながらだったんですけれど、漫研の合宿の話くらいだったら書けるかもしれないです、とお受けしました。それを雑誌に連載している頃に、作中にも出てくる双葉社のS町さんと打ち合わせでお会いした時、「あの男子校の話面白いですね」っていう話をして。「うちの連載では出版社のことを書きませんか?」と言われて「あっ……。ちょっと考えさせてください」と言って家に帰り、この本にも出てくるアダっちにも相談したりして。
――おお、作中めちゃくちゃいい味出してるアダっちさん! 編集者時代に編プロにいた彼女と親しくなり、その後ずっと親交があるんですよね。作中にあるように、アダっちさんは本当に「自分が小説に書かれるならキャラづくりしなきゃ」と言ってキャッチーな服を着たり変な笑い方したりしてらしたんですか。
「生きてるうちに全部書いちゃいなよ」
藤野 してました(笑)。アダっちは昔からの友人で、今も小説のことをあれこれ相談しています。それで、「出版社の話ってどうかな」と言ったら、「書け」って。「生きている間に全部書いちゃいなよ」って言われたので、覚悟を決めて「じゃあ書きます」ってお返事しました。
タイトルだけ先に決めてくださいって言われて「出版残酷物語」と伝えたら「それはちょっとテンションが下がるんで変えてくれませんか」って言われて。それで、そちらはサブタイトルにして、とっても好きだった手塚治虫さんの漫画『人間ども集まれ!』にちなんで『編集ども集まれ!』にすることにして。それもアダっちが考えてくれたような気がします。
連載が始まる前、雑誌の次号の連載予告文を見たら、わりと普通に明るい感じで「きつい仕事だけどこの仕事大好きなんだぜ」みたいに書かれてあったので「あれっ」と思って、S町さんに「もしかして自伝じゃなくていいんですか?」って訊いたら、どうやら自伝のつもりはなかったみたいで(笑)。「その時代の出版社のことを」と言われたので悩んだんですけれども、一度自伝を書くと決めたわけですから、「自伝でもいいですか」とお話ししたら「ぜひ」ということになりました。
――ちょうど出版社の業界ものの小説が多い時期だったので、そのイメージがあったんでしょうね。
藤野 そうなんです。後から「そうか、出版ものは流行っていたのか」と気づき、「じゃあ『舟を編む』みたいなものを書けばいいのかな」とアダっちに相談したら「書けるのか」と言われ、「書けないとは思います」と(笑)。
だから連載1回目で、小説家がとりあえず取材に行く、という話で始めたのは、まだ少し悩みが残っていたからですね。ちょっと探り探りなところがあって、たぶん。もしかしたら途中で書けなくなるかもしれないと思いながら始めたところがあったので。書けそうな出来事はいろいろあるけれど、それを自分で掘り下げていけるのかなっていう気持ちがありました。