自分で封印していることがいっぱいあった。でも、楽しかったことがどんどん思い出されてきた
――最初に「出版残酷物語」にしようとしたのは、そういう話にするつもりだったのですか。決して本作は過酷な話ばかりではないですが。
藤野 本当はもうちょっと、出版界が冷えている現状も耳にしていたので、みんなが夢を持ちながら夢破れていくところは書くつもりでしたが、タイトルを変えた時点でわりと前向きな作品になるかもしれないなとは感じていました。それで結局、本になる時にS町さんに「あのサブタイトルはもう要らないですね」と言われ、S町さん、よっぽどこのサブタイトルが嫌だったんだなって思いました(笑)。
自分で思い出さないようにしていたこととか、封印しているようなことはいっぱいあったんです。神保町もずっと行かなかったし、当時の会社には当然行っていないですし。それでも書いていくと、もともととっても好きな仕事だったし漫画が好きだったので、楽しいことがどんどん思い出されてきたんですね。楽しかった部分と最終的に会社を辞めなくてはいけなくなる部分は繋がってはいるんですけれど、楽しかったことは楽しかったこととして書いていこう、という気持ちにはなりました。楽しかった時点では、この先に別に悪いことが起こるとは思っていなかったですし。
――現在の作家の笹子の部分と、過去の編集者・小笹の話を交互に進めていくというのは決めていたんですか?
藤野 そうですね。前の高校の漫研の話というのは、基本的にはその時代を主人公が自分語りしている形で進めたんですが、今回は出版社勤めといっても一人で見ている範囲は狭いといえば狭いので、それよりは周りの編集者やフリーの友達、それこそ編プロにいたりフリーになったりしたアダっちや他の人たちのことも出していくことにして。それならこういう語りも面白いかなと思いました。