おけら街道…… それは、競馬場で身銭を盛大にすって、敗北者たちが背中を丸めながら駅へと向かう残念な道のことです。世界はこんなに明るく輝いているのに、どうしてギャンブルに負けた人はこんなに残念な存在なのでしょう。勝てると思って意気揚々と馬券を買い、思い通りにいかなくて外れ馬券をちぎって空に投げる。この見る者の心の中に8割の物悲しさと、2割のざまあみろとの微妙なブレンドを醸させるおけら街道は、私がよく子供の手を引いて歩く水道橋にも存在します。爽やかな汗を流したスポーツマンや、行われるコンサートに胸を躍らせる若者たちに交じって、黒や灰色や濃紺や深いこげ茶などのどどめ色をした地味に貧乏くさいギャンブラーが徘徊しているのはWINSがあるからでしょうか。

東京・水道橋にあるWINS後楽園 ©iStock.com

暗号通貨という新しい賭場

 もちろん、証券投資でやらかした人、FXで有り金を溶かした人、投資の界隈の「なるだけ生活に困らない金額を自分で設定して、無理のない範囲で投資しましょう」という呼びかけも空しく、絶対勝てるという高揚感に負けて全力で相場を打ち、盛大に討ち死にするジェントルメンがあとを絶ちません。そこに賭場がある限り、ポケットに突っ込んだ金額を全部ぶち込まなければ気が済まない愛すべき人種は一定の割合でおられます。

 そこへ出てきたのが暗号通貨の世界です。仕組みは良く分からないけど、何となく凄そうじゃないですか。貼られた値札の値動きで一喜一憂したい人たちにとって、これほど魅力的な賭場はありません。だって仕組みは良く分からないんだもの。証券は一応企業の業績や景気の動きといったバックグラウンドについて勉強したほうが勝率が上がりそうだ。FXも短期的な値動きはともかく実際の通貨の売り買いであることは理解できる。しかし、暗号通貨は正直なんのことだか分からないって人がいっぱいいるでしょう。

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 一昨年、暗号通貨って何かというNHKの番組に出たときは、まだビットコインもせいぜいはした金で面白半分に突っ込むものであり、そういう画期的な世界もあるんだよぐらいのものだったわけです。取引所まるごと吹っ飛んだり、詐欺に遭って被害届を出したけど警察側が仮想通貨がなんなのかさっぱり分からないから、商店街の発行する商品券つきスタンプのようなものと理解して被害者に対して「発行元は誰だ? いない?? なんだそれは?」とか詰めるという悲劇もありました。