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三木谷浩史「イーロン・マスクが日本市場に興味を抱かなかった理由」

『未来力』 #1

2023/01/16
note

 結局、その後のテスラは知っての通り、中国を筆頭に世界中で売れるようになった。以来、イーロンから見た日本市場は、さらに「面倒くさいから、あとでいいや」という場所になっていそうなのは残念だ。

 それでも、そのイーロンのビジネスのやり方を見ていると、僕は強く実感することが一つある。

 それは「未来」を構想していくためには、「素人」として物事を観察する姿勢がとても大事だということ。それもただの「素人」であるだけではなく、どこまでも徹底したスーパーアマチュアであること――。というのも、イーロンの事業のほぼ全てが、そうしたアマチュアの視点から「そんなの、こうすればいいじゃん」と考えた発想で、業界の「常識」とされているものに切り込んでいったものだからだ。

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 彼が取り組んでいる自動運転車であれ、宇宙船のクルードラゴンであれ、自動車業界や宇宙航空業界にはこれまで培われてきた長い経験と歴史があった。

 もちろん、コツコツと問題点を見つけ出し、少しずつ製品を改良し、より良いものを作っていこうとする時、経験や歴史の積み重ねがものを言うだろう。だけど、時代が大きく移り変わっていく時には、その経験や歴史が自由なものの見方を阻害してしまうことがある。それらが作り出す既成概念に、彼ら自身が縛られてしまうからだ。

素人の視点こそが

 では、そうした「業界」の既成概念にとらわれず、色眼鏡を外して物事をシンプルに見るためにはどんな姿勢が必要なのだろうか。それこそが物事を「アマチュア」として見ることだと、イーロンのキャリアは教えてくれているように僕は思う。

 彼は自動車のスペシャリストではなかった。だからこそ、例えばゴルフ場で使われているゴルフカートなんかを見て、「電動自動車というのは、アレをもっと速く走れるようにすればいいんだろ?」という感じでモノづくりを始めることができた。