「面白そうな兄ちゃんだなァ」。かつてイーロン・マスク氏とカラオケに訪れた楽天・三木谷浩史氏。三木谷氏がそこで感じた「マスク氏の先見性」とは?

「週刊文春」で連載中の三木谷氏による人気コラムを単行本化した『未来力 「10年後の世界」を読み解く51の思考法』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

イーロン・マスクとカラオケに訪れた楽天・三木谷浩史氏。彼がそこで感じたマスクの強みとは? ©getty

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イーロン・マスクとのカラオケで

 僕がイーロン・マスクという起業家に初めて会ったのは、2014年頃のことだ。

 投資銀行を辞めてプライベートファンドをしていたアメリカ人の友人に、「俺のパートナー」だと紹介されたのがイーロンだった。

 当時、彼は従兄弟のリンドン・ライブとピーター・ライブが創業した「ソーラーシティ」の構想など、太陽光エネルギーのもたらす未来についてずいぶん熱心に語っていた。後にテスラが買収する同社の事業は、結果的に大きな「失敗」とも今では酷評されている。でも、太陽光によって効率的なエネルギーの再利用と消費を目指し、持続可能な未来を作り出そうという彼のイメージは、テスラやスペースXの事業に連なっているものだ。

 そんな壮大な構想を話すイーロンは、とにかく「面白そうな兄ちゃんだなァ」という印象を抱かせる。僕ももっと話をしてみたくなり、シリコンバレーの自宅で毎年やっていたパーティに誘うようになった。

規制の多い日本市場

 香港にいた彼からアシスタントを通じて連絡があったのは、それからしばらく経った頃だった。

「イーロンが東京でカラオケをやりたいと言っているんだけれど、案内してくれる?」

「ああ、いいよ。行こう行こう」

 彼はそんな軽いノリで東京にやってきた。そして、実際にカラオケに行って歌をうたった後、少しだけビジネスの話もしたのを覚えている。

イーロン・マスク氏 ©getty

 「テスラのモデルSを日本でどう売るか」についていろいろと考えを巡らしていた彼は、日本法人の社長候補を探しているとも言っていた。

 でも、モデルSという自動車は確かに性能がすごく良いけれど、日本の狭い道路事情には合っていないように僕には思えた。

「もっと小さな車が出た時、また考えよう」

 そんな感想を伝えると、ビジネスの話は終わりだった。

 イーロンは日本という国の技術に対しては、リスペクトを持っているようだった。何しろテスラの電気自動車に使われているのはパナソニックの電池だ。それに彼らが車を作っているのも、元はトヨタとGMの合弁会社だったNUMMI(ヌーミー)だから。

 ただ、日本には様々な規制があって、自動運転にしても、シェアリングエコノミーにしても、彼が思い描くような自由なイノベーションが起こりそうにない。多くの規制に合わせた車のカスタムメイドも必要なので、テスラにとってはあまり魅力的なマーケットではなかっただろう。