過去には政策を巡って、安倍晋三氏と衝突したこともある楽天・三木谷浩史氏。それでも彼が、亡くなった元首相に敬意を払い続ける理由とは?
「週刊文春」で連載中の三木谷氏による人気コラムを単行本化した『未来力 「10年後の世界」を読み解く51の思考法』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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忘れられない検査着姿の安倍さん
安倍晋三元首相とは生前、官邸での会議や時には食事の席でご一緒させて頂いた。中国、アメリカとの国際関係、世界のエネルギー政策、2世議員の在り方。多岐にわたるテーマを語りながら、「世の中ではこういうふうに言われてるけど、実はこうなんだよな。ハッハッハッ」と明かしてくれたり……安倍さんと話をするのは、本当に楽しかった。
ただ、もともとはそれほど親しい間柄だったわけではない。最初の記憶としてぼんやり残っているのは、第1次政権の後、観光地でバッタリ会った際に「あれ、こんなところで何してるんですか?」と挨拶したことかもしれない。安倍さんもまだ「もう1度首相を目指す」という感じではなかったように思う。
でも2012年末、再び首相の椅子に座ることになる。そして僕も産業競争力会議のメンバーに呼ばれるなど、安倍さんと接する機会が増えていった。当時感じていたのは、安倍さんもまた、日本を海外に向けて開けた国にしたいという強い想いを抱いていたということだ。
実際、外国人観光客を増やしていくことの重要性を掲げ、外国人労働者の受け入れ拡大なども前向きに進めてきた。英語教育も「これからの日本にとっていかに大事か」と訴えると、真剣に耳を傾けてくれた。
特に、現職首相としてシリコンバレーを訪れてくれたことが思い出深い。あの時はイーロン・マスクにも会われたし、テスラの電気自動車にも乗られた。ベンチャー起業家と一緒のラウンドテーブルにもご参加頂いた。
僕の目には安倍さんが生き生きと、それこそ未来の世界を感じているように映った。彼らの率直な声を、現地で聞いた初めての首相だったのではないだろうか。規制を撤廃して民間の力を活用することが、日本を復活させる改革の要なんだと実感してもらえたと思っている。