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アベノミクスへの不満、LGBTや夫婦別姓を巡る議論では対立…それでも三木谷浩史が「安倍元首相の国葬」に賛成だった理由「気さくで優しい、気遣いのできる人だった」

『未来力』 #4

2023/01/30

source : 週刊文春

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官邸で直接抗議した

 一方で産業競争力会議では、医薬品のネット販売を巡って安倍さんと激しく衝突したこともあった。最高裁が2013年、ネット販売を規制する厚労省に対し、違憲判決を下したにもかかわらず、政府は計28品目について要指導医薬品という規制のための新たな医薬品カテゴリを作ってネット販売を禁じようとしたのだ。

楽天の三木谷浩史氏 ©getty

 僕は「何のための規制改革なのか」と官邸まで行って安倍さんに直接、抗議をした。一対一で長時間話し合ったが、膨大な国の予算を差配する安倍さんからすれば、小さい話だったのかもしれない。「99パーセントを解禁したのだから1パーセントくらいいいじゃないか」という雰囲気だった。「三木谷君、ほんと頑固だよね(笑)」と思われていたかもしれない。

 結局、僕が押し切られるというか、政府にあしらわれるような形でその規制が認められてしまった。それは、最高裁ですら認めた規制改革が、官僚や既得権益を持つ人々の思惑によって、いかに骨抜きにされてしまうかを実感した瞬間だった。

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 アベノミクスについても、評価は難しい所だ。金融緩和や財政出動について言えば、短期的なカンフル剤としては良かったと思う。ただ、あくまで短期的なカンフル剤だから、そこからファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)がついてこないと意味がない。そのために必要なのが、規制を打破する成長戦略だったはずだ。しかし果たして、本当に成長戦略を描くことができたのか。そこについては物足りないという印象だった。

 産業競争力会議で声が大きかったせいもあったのか、2016年に始まった未来投資会議のメンバーには選ばれなかった。それでも、様々な場で安倍さんとは意見交換を続けてきたし、日本を世界に向けて開いていくという大きな方向性については共有できていたと感じている。

 思えば、政治的な主張や考え方では相容れないと感じる時も少なくなかった。例えばLGBTや夫婦別姓を巡る議論では、社会にとってダイバーシティこそが最も大切だと信じている僕には、素直に頷けないところもあった。森友問題での国会答弁など、彼の攻撃的な面はメディアでもよく取り上げられていたように思う。