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【ドラマ化】「描いている僕も苦しい」“辛い境遇の子ども”を描く児童精神科マンガ『リエゾン』作者の使命感《児童虐待、ヤングケアラー、知的障害、親子の死別…》

ヨンチャン氏インタビュー#1

2023/01/20
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「ヤングケアラー」の話は実際に見た風景

──『リエゾン』はチーム体制だそうですが、どのようにつくっているんですか?

ヨンチャン 制作チームは基本的に7人です。まず、共同原作の竹村優作さん。監修は児童精神科医の三木崇弘先生、原作協力として児童精神科医の山下圭一先生。編集担当が3人、そして僕です。アシスタントも入れると10人くらいになります。

 僕はエピソードのテーマ会議から参加しますし、取材もできる限り同行しています。 

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ヨンチャン氏は韓国出身。幼少期から日本のマンガを読んで育ち、日本で最初にマンガ学部を置いた京都精華大学に留学生として来日。2017年にモーニング新人賞で大賞を獲得し、デビュー。2018年に初連載『ベストエイト』を開始(全4巻)。2020年からモーニング本誌で『リエゾン』の連載を始める。

──それはさぞお忙しいのでは……。そのスケジュールの中、エピソードのテーマやストーリーはどこで着想するんですか?

ヨンチャン 日常生活で出会う風景からピックアップすることが多いです。

 たとえばファミレスで、スマホを片手にした母親と子どもを見かけることがあります。母親はスマホに夢中で、放置された子どもは退屈している。その子は大丈夫かな、みたいなワンシーンを覚えておくんです。その後、テーマ会議で「こんなスマホの話はどうですか」などと話し合っていきます。

「ヤングケアラー」というエピソードのプロローグ(単行本6巻「夜間託児所」最終話に収録)も、僕が実際に見たものを元にしています。

──母親を乗せた車椅子を押す小学6年生と、クリニックの臨床心理士がすれ違うシーンですね。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

ヨンチャン 僕の家の近所に視覚障害者向けの施設があって。視覚障害者さんの傍らには、ケアをする方が必ずいるんですね。僕がその姿を見たとき、ケアをする方々のケアはちゃんとされているのか、その方々の気持ちは大丈夫なんだろうか、と思ったことがきっかけになっています。

──そういうエピソードのネタを集めておくんですね。

ヨンチャン 最初は僕一人だったんですが、今は制作チームでネタをたくさんつくり、取材して集めた素材をもとに一緒に構成を考え、共同原作の竹村さんがセリフやストーリーを含む脚本を書き、僕が最終的にまとめています。たとえると、映画をつくる感覚に近いかもしれません。脚本をみんなで話し合って決めたら、僕が演出、監督、カメラマンになって、俳優や台詞、カメラ、音楽などを調整・編集して、ひとつの作品に仕上げていきます。

死別した家族の愛を描く「グリーフケア」

──『リエゾン』は単行本が7巻となり、これまでに20以上のエピソードが描かれています。ご自身の中で特に印象的なものはどれですか?

ヨンチャン どのエピソードもわりと覚えていますが、ひとつ選ぶなら「グリーフケア」(単行本5巻に収録)です。

──グリーフケアは、身近な人びとと死別した方に対し、その喪失感や悲しみから立ち直れるよう支援することですね。

 このエピソードには実優ちゃんという、軽度の知的障害とASD(自閉スペクトラム症)を持つ小学1年生の女の子が登場します。彼女は両親と弟の4人家族でしたが、最初のページは不慮の事故で亡くなった母親の葬儀から始まりますね。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

ヨンチャン そうなんです。ただでさえ、子どもを残して去る親の気持ちは言い表せないと思いますが、その子に身体的、もしくは精神的なハンディキャップがある場合はどうでしょうか。

 普段から親は、より切実に、わが子への想いを伝えようとするのではないか。自分の死後に起きることを考え、さまざまな準備をしておくのではないか……。

 エピソードのテーマは、《親子の心の通い合い》です。通常の意思疎通が難しい実優ちゃんは、母親を失ったことをどう実感するのか。亡き母親、そして残された父親の想い。この回では、一貫して親から子への愛を描きました。

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