子どもを巡る問題の中でも深刻なのが、児童虐待だ。厚生労働省によると、2020年に18歳未満の子どもが虐待を受けて児童相談所が対応した件数は、過去最高の20万5029件に上る。児童精神科を描くマンガ『リエゾン―こどものこころ診療所―』(講談社・モーニングで連載中)の最新刊7巻(12月23日発売)にも、虐待についてのエピソードが収録されている。著者のヨンチャン氏は、虐待事件をどう見ているのか。(全2回の2回目/前編を読む)
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目黒区の「結愛ちゃん事件」から受けた衝撃
──『リエゾン』では児童虐待や非行、不登校など、子どもにまつわるさまざまな問題を扱っています。ヨンチャンさんが実際のニュースや事件で特に関心を寄せたものは何ですか?
ヨンチャン 2018年に起きた、東京都目黒区の船戸結愛ちゃん虐待死事件です。『リエゾン』が始まる前の事件ですが、やはり衝撃的でした。「虐待と通告」というエピソード(単行本7巻に収録)は、結愛ちゃんの事件の影響も受けています。
このエピソードを描くにあたり、日本子ども虐待医学会が結愛ちゃんの事件を時間軸で分析した検証報告書を読んだんですが、辛いという表現しかできない内容でした。多くの支援につながっていたにもかかわらず、結愛ちゃんは亡くなるという最悪な結果になったので。
──あの事件では、児童相談所も虐待について把握していたんですよね。
ヨンチャン 結愛ちゃんを支援する人たちは全力を尽くしたと言ってもいいぐらい、できることはやったと僕は思うんですよ。それでも救えなかった。
あの事件のニュースを見て嫌な気持ちになった人たちは、児童相談所や役所に苦情を言うのかもしれないですが、それだけでは解決しないですよね。僕は社会全体の問題だと思っています。
──結愛ちゃんのように虐待を受けている子は世の中にまだいるかもしれませんね。
ヨンチャン 結愛ちゃんのように虐待を受けている子は世の中にまだいて、表には見えないだけかもしれない。これは虐待児支援に関わる何人か、何十人かだけが頑張る問題ではないです。
だから、社会全体が意識を向けることが、唯一の解決方法だと思うんです。こういう事件を耳にしたら、状況や問題を整理して、自分は何ができるかをまず考えるべきだろうと。
僕はマンガ家なので、作品を通して自分が社会に何ができるのか、どう変えられるかを考えています。作品のテーマとして事件を扱ったり、取材をしてみて、より一層そう感じます。