誰もが日々をソツなくやり過ごせるわけではない。政府が11月に閣議決定した2021年版の自殺対策白書では、2020年の自殺者数は2万1081人。11年ぶりに自殺者数が前年より増加した。
不安や孤独感、どうにもならない絶望感が忍び寄ってきたら、『リエゾン―こどものこころ診療所―』(講談社・モーニングで連載中)を読んでほしい。自らも発達障害を抱える児童精神科医が、虐待、不登校、摂食障害、ヤングケアラーなど、悩みや痛みを持つ親子と向き合っていく医療マンガだ。楽しいエピソードばかりではないが、描かれる人々が抱える想いと、それをケアする医療者たちの姿に、張り詰めた心が溶かされるだろう。
『リエゾン』の単行本売上累計は現在65万部を超え、今秋には全国学校図書館協議会選定図書にも選ばれるなど、支持が広がっている。あえて今、なぜ辛い境遇の子どもを描くのか、著者のヨンチャン氏に聞いた。(全2回の1回目/後編を読む)
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「児童精神科」だからこそ生まれるドラマ
──なぜ児童精神科をテーマに選んだのですか?
ヨンチャン 連載のネタはいろいろありましたが、まずは「自分が社会とつながりたい、社会に何かを貢献したい」という気持ちでした。
実は初連載の『ベストエイト』で、プロのマンガ家は想像以上に追いつめられる世界だと実感して。一人で家にこもって作業していたので、社会との接点がどんどん希薄になり、自分だけ置き去りにされるような孤独感が募っていきました。だから次回作では「僕もここにいるんだ。この社会の一部なんだ!」ということを伝えたいと思っていました。
そのタイミングで、編集部から児童精神科をテーマにした新作を打診されたんです。
──児童精神科と聞いたときは、どう思いましたか?
ヨンチャン これは普通の医療マンガにはならないなと。というのは、児童精神科は子どもの成育環境を重視するんですよ。
──誰にどう育てられたかなどですね。
ヨンチャン そうです。そこには必ずドラマがあります。児童精神科というテーマなら、話の中に感動が生まれますし、さらに社会啓発の要素も含みます。
──では、まずテーマが決まって、そのあとキャラクターが生まれたと。
ヨンチャン はい。主人公の遠野志保は研修医で、彼女自身にも発達障害があるという設定です。
医療マンガは読者に対して一方的な知識啓蒙になりがちですが、この主人公は自らの特性に悩み、子どもたちにも当事者として寄り添います。
僕自身、もともと発達障害に詳しかったわけではありません。だからこそ、こういう主人公ならば、送り手側の僕も読者と同じ目線でさまざまな特性を理解できる。マンガをただ描くだけでは得られないやりがいも感じられるんじゃないかと思いました。
『リエゾン』では、虐待や不登校など心に深く刺さるテーマが多く、描いている僕も苦しくなることがあります。
でも、これを読むことで救われる人がいる。その循環の中で自分も社会とシンクロすることを試行錯誤しつつ、前作とは違う充実感を得ています。