「ヤングケアラー」の話は実際に見た風景
──『リエゾン』はチーム体制だそうですが、どのようにつくっているんですか?
ヨンチャン 制作チームは基本的に7人です。まず、共同原作の竹村優作さん。監修は児童精神科医の三木崇弘先生、原作協力として児童精神科医の山下圭一先生。編集担当が3人、そして僕です。アシスタントも入れると10人くらいになります。
僕はエピソードのテーマ会議から参加しますし、取材もできる限り同行しています。
──それはさぞお忙しいのでは……。そのスケジュールの中、エピソードのテーマやストーリーはどこで着想するんですか?
ヨンチャン 日常生活で出会う風景からピックアップすることが多いです。
たとえばファミレスで、スマホを片手にした母親と子どもを見かけることがあります。母親はスマホに夢中で、放置された子どもは退屈している。その子は大丈夫かな、みたいなワンシーンを覚えておくんです。その後、テーマ会議で「こんなスマホの話はどうですか」などと話し合っていきます。
「ヤングケアラー」というエピソードのプロローグ(単行本6巻「夜間託児所」最終話に収録)も、僕が実際に見たものを元にしています。
──母親を乗せた車椅子を押す小学6年生と、クリニックの臨床心理士がすれ違うシーンですね。
ヨンチャン 僕の家の近所に視覚障害者向けの施設があって。視覚障害者さんの傍らには、ケアをする方が必ずいるんですね。僕がその姿を見たとき、ケアをする方々のケアはちゃんとされているのか、その方々の気持ちは大丈夫なんだろうか、と思ったことがきっかけになっています。
──そういうエピソードのネタを集めておくんですね。
ヨンチャン 最初は僕一人だったんですが、今は制作チームでネタをたくさんつくり、取材して集めた素材をもとに一緒に構成を考え、共同原作の竹村さんがセリフやストーリーを含む脚本を書き、僕が最終的にまとめています。たとえると、映画をつくる感覚に近いかもしれません。脚本をみんなで話し合って決めたら、僕が演出、監督、カメラマンになって、俳優や台詞、カメラ、音楽などを調整・編集して、ひとつの作品に仕上げていきます。
死別した家族の愛を描く「グリーフケア」
──『リエゾン』は単行本が7巻となり、これまでに20以上のエピソードが描かれています。ご自身の中で特に印象的なものはどれですか?
ヨンチャン どのエピソードもわりと覚えていますが、ひとつ選ぶなら「グリーフケア」(単行本5巻に収録)です。
──グリーフケアは、身近な人びとと死別した方に対し、その喪失感や悲しみから立ち直れるよう支援することですね。
このエピソードには実優ちゃんという、軽度の知的障害とASD(自閉スペクトラム症)を持つ小学1年生の女の子が登場します。彼女は両親と弟の4人家族でしたが、最初のページは不慮の事故で亡くなった母親の葬儀から始まりますね。
ヨンチャン そうなんです。ただでさえ、子どもを残して去る親の気持ちは言い表せないと思いますが、その子に身体的、もしくは精神的なハンディキャップがある場合はどうでしょうか。
普段から親は、より切実に、わが子への想いを伝えようとするのではないか。自分の死後に起きることを考え、さまざまな準備をしておくのではないか……。
エピソードのテーマは、《親子の心の通い合い》です。通常の意思疎通が難しい実優ちゃんは、母親を失ったことをどう実感するのか。亡き母親、そして残された父親の想い。この回では、一貫して親から子への愛を描きました。