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──エピソード5話目で、父親は子どもたちを遊園地に連れていきます。母親の死をまだ実感していない実優ちゃんは、お化け屋敷を見て「ママは中にいる? 会いに行こう」と言いますが、父親が「ママはもうどこにもいない」とはっきり告げるシーンがありますね。

 ここを読んでいたとき、まるで自分も同じ遊園地にいて、実優ちゃんたち親子を見ているような錯覚がありました。フィクションとは思えなかったのですが、これは実話ですか? 

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

ヨンチャン このエピソードでは、竹村さんがグリーフケアのサポーターグループに取材しています。加えて、大学病院でがんのグリーフケアをしている方々に伺ったお話も参考にしています。

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 でも、遊園地で子どもに母親の死を話すのは僕たちがつくった部分ですね。

親子の生々しい感情「ママは帰って来ない」

──親子の感情が生々しく迫ってきて、揺さぶられました。

ヨンチャン すごく突き放したことを言うと、読者にとってマンガの中の話は他人事じゃないですか。その距離感をどこまで縮められるかは、作画をする僕にすべてかかっているんです。

 僕は、読者が「これは自分の体験だ!」と感じるくらい、作品に没入してほしい。だから、あの遊園地のシーンにはさまざまな演出をかけています。

──たとえばどんなところを?

ヨンチャン 父親に「ママは帰って来ない」と言われた実優ちゃんは、遊園地のベンチで「ママ……」と泣きかけます。が、指でバツ印をつくり、泣くのをこらえようとする。この《指でバツ印をつくる》シーンです。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd
ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

──実優ちゃんはもともと「外で泣いてはいけない」と言われたのが強く心に残っていて、泣きそうになったら「お外では泣きません ご迷惑だから大きい声出しません」と自分に言い聞かせていたんですよね。指でバツをつくるのも実優ちゃんのクセで。

ヨンチャン そうです。プロットからは演技やセリフを入れ替え、実優ちゃんと母親のシーンを付け足すなどして、母との絆、愛情を感じられるクライマックスにしました。

 一方で、話が都合よく運びすぎていないか、というのはすごく考えます。なぜなら、マンガの感情表現には徹底的なリアリティがないと、読む側が「これは嘘だ」と冷めるんですよ。

 だから僕は、ストーリーや台詞だけに頼らず、自分が登場人物になりきって気持ちを感じる。そして、その人として見る風景、感じる空気や温度、匂いまで丸ごとコマに落とし込んで、読む人の五感に働きかけたいんです。

──そういう演出がされていたんですね。本当に引き込まれました。