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楽しい場所なのに大切な人がいない虚しさ

ヨンチャン あとは、遊園地という《楽しい場所》と、その真逆の《死》。この2つを意識的に対比させました。

 遊園地にいるのは幸せそうな家族連ればかりで、この日はめちゃくちゃいい天気なんです。どこを切り取っても幸せな空間なのに、実優ちゃんと弟には、母親がいない。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

──実優ちゃんが、母親と過ごした誕生日を回想するシーンもありますね。

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ヨンチャン 聴覚過敏の実優ちゃんは、誕生日に母親からもらったイヤーマフをつけて遊園地に来ています。そして、ノートに遺されたメッセージを思い出します。

 そういう細かいシーンを積み重ねて、母親が実優ちゃんをどれほど愛していたかを描いています。

 でも、その母親はもういない。

──それを理解した実優ちゃんは、青空の下、遊園地のベンチで号泣するんですね。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

ヨンチャン ええ。マンガを描くときの僕は、ふたつの視点を持つことを心がけています。

 ひとつは、作中人物の視点。作品に入り、彼ら一人ひとりの気持ちを感じる。もうひとつは、演出家、監督の視点です。作品の外から冷静に「この画面を入れたら、読者により伝わるだろう」と考える。どちらが欠けてもいい作品は生まれないと思っています。

 でも「グリーフケア」のこの回は、冷静でいたいのに、何度も話の中の世界に自分が持っていかれそうで、踏みとどまるのが大変でした。ネームづくりに通常の倍の1週間かけて、さらに大学時代を過ごした京都まで行ったんですよ。

──京都へ?

ヨンチャン ええ。この話はいつものやり方じゃなく、それくらい環境を変えないと描けないなと思って。ネームを描きながら、「このときはどんな気持ちだろう」と何度もそれぞれの人物になって、5回くらい泣きながらつくった記憶がありますね。でも結果的に、一番よく描けたエピソードだと思っています。