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2021/12/30

──「虐待と通告」のエピソードでは、親から虐待を受けた女の子は最後に保護されて、両親が逮捕されていますね。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

ヨンチャン だけど、現実の事件は必ずしもよい結果では終わりません。被害者は結局亡くなってしまう事件が結構ありますね。

 結愛ちゃんのケースでは、児童相談所が彼女を一時保護していますし、父親も2度書類送検されているんですよ。でもその後、状況が改善されたと判断されて、結愛ちゃんは両親の元に戻されます。その後、児童相談所が訪問しても彼女には会えなくなり、ついに亡くなる。

 だから、「虐待と通告」のエピソードを結愛ちゃん事件の時間軸で見ると、途中までしか描いていないことになるんです。

──では、ヨンチャンさんの中では、「虐待と通告」のエピソードはまだ終わっていない?

ヨンチャン あのラストシーンの後がどうなるかは、読者の皆さんに考えていただければと思います。

 ただ、現実には隠されている問題がたくさんあって、僕たちは見ていないだけなんです。だから、隣の家で子どもが虐待されていないか、子どもが一人で外に出ていたら、何かおかしい部分はないかなど、意識を向けて見てみる。そして、気になったらすぐに行政に報告するという社会の雰囲気をつくるのが、僕たちの責任じゃないかと思っています。

描くなかで蘇った「自分のトラウマ」

──『リエゾン』の最初のエピソード「でこぼこ研修医のカルテ」(単行本1巻に収録)には、《医療従事者は患者の診察をきっかけに、忘れようとした辛い記憶の蓋が開くことがある》というシーンがあります。

 ヨンチャンさんが『リエゾン』を描く中で、ご自身のさまざまな辛い記憶が甦ることもあると思います。プロのマンガ家として、それを作品にどう昇華させているのでしょうか。

ⓒYoungchan・Yusaku Takemura/Kodansha.ltd

ヨンチャン 僕には4歳上の兄がいるんですが、親が共働きだったので、子どもだけで過ごす時間が長かったんですね。

 兄は暴力的で、幼少期の僕はかなり辛い思いをしました。2人きりでいると、自分の居場所がないと感じることもあって。そのときの「誰にも頼れない」という状況は五感で記憶していて、今も鮮明に甦ります。

 だから『リエゾン』で虐待や孤独を描くときは、自分の経験がかなり役に立っているところはあります。

──たとえばどのエピソードに反映されているのでしょうか。

ヨンチャン 「虐待の連鎖」(単行本2巻に収録)では、中学1年生の男子の回想として、幼児期にパンツ一丁にされて廊下へ追い出されるシーンが出てきます。これ、僕の経験なんですよ。

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