──この男の子は、ヨンチャンさんご自身なんですね。
兄の仕打ちは「本当に……一生、一生忘れない」
ヨンチャン そうです。その記憶はただ追い出されただけではなくて、パンツにちょっとおしっこが漏れてしまっていて、染みているその気持ち悪さや、廊下に響いている自分の泣き声まですべて。本当に……一生、一生忘れないと思うんですね。
子どもの頃の記憶は、生涯にわたって自己のアイデンティティに影響していくんだなと、身をもって感じます。だからこそ、どうしたら子どもに幸せな記憶、もしくは幸せな環境を与えられるかを、すごく考えるようになったのかもしれません。
──「非行少年」(単行本3巻に収録)では、母親がバッヂのピンを小学生の少年の太ももにぐっと押し込むシーンがありました。母親は彼氏といたいから、少年に帰宅してほしくない。すぐに帰ってくるなという警告の意味でピンを刺す。
本来、味方であるはずの親や兄弟からそういう攻めを受けると、もう逃げ場がない、どうしたらいいんだよという気持ちが伝わってきて、胸がグラグラしました。これは想像だけでは描けないだろうと。
ヨンチャン 想像だけでは描けないです。《家族問題》とひと言で済ませるのは簡単ですが、子どもにとっては、家族は自分のすべてなんですよ。
子ども時代の僕は学校から家に帰る途中、いつも「今日はお兄ちゃんがいませんように」と祈るんです。家に兄がいなかったらマジでバンザイ、ハッピーみたいな。そういう記憶は今もリアルに引き出せるので、マンガのいろいろな部分に僕の記憶を入れています。
──お兄さんとの関係は、現在はいかがですか。
ヨンチャン 兄とは長年、絶縁状態で。親も心配するので、先日僕から電話をかけて、数年ぶりに話したんですよ。といっても社交辞令ぐらいで、すぐ終わったんですが。
兄弟仲はよくあるべきなんでしょうが、今までのことを水に流して仲良くするのは、なかなか難しいです。
──そうですね。でも、問題がまったくない家族のほうが珍しい気もします。
ヨンチャン 僕自身が今も家族問題を抱えているので、『リエゾン』は他人事として描けないんです。だから皆さんが読むときにも、自分自身の話、もしくはすぐ近くにいる人の話かもしれないと感じてもらえれば、世の中が少しプラスの方向に進むかなと思います。