1月19日の選考会を経て、第168回芥川龍之介賞に選ばれた佐藤厚志『荒地の家族』は、こんな舞台設定と筋立ての小説だ。
宮城県南部の亘理町で造園業を営む祐治は、最初の妻を東日本大震災後に病で失う。ふたりめの妻は流産を機に去っていき、いまは母と息子の三人住まい。2011年の「災厄」の記憶を寄せては返す波のように蘇らせながら、祐治はなんとか生き抜こうともがき続ける――。
「地元仙台の方々に喜んでいただけているようなので、それが何よりです」
と受賞決定直後にコメントした通り、著者の佐藤厚志さんは仙台で生まれ育ち、同市中心街にある書店に勤務する身。掲出の写真で、大量の本を抱えながら一冊を棚に挿すしぐさが、これほど堂に入っているのは当然なのである。
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書店に勤務しながら掴んだ栄冠
書店に勤務しながら執筆を続け、2017年に『蛇沼』で第49回新潮新人賞を受賞し小説家デビュー。2021年の『象の皮膚』などを経て、『荒地の家族』が芥川賞に初ノミネートされ、そのまま受賞と相成った。
書店に勤めながら小説を書いていることは、デビュー以来徐々に知られるようになっていた。それが今回の地元からの手厚い応援に結びついた。作品の舞台が東北でもあるので、これは地元の人へ向けて書いた作品という意識もある?
「いえそこは特定のだれかへ向けて書いたということはなく、できるかぎり広い範囲に届けばと願っています。東北を意識することがあるとすれば、自分は東北にゆかりのある作家に押し上げていただいてここまでこれたとの気持ちが強いので、その方々に差し出せるものができたといううれしさは感じています」
東北にゆかりある作家とはたとえば……?
「ずっと仙台に住んでいらっしゃる伊坂幸太郎さんは、新刊が出るたびうちの書店でもサイン本をつくっていただいたりしています。柳美里さんには、2020年に私の『境界の円居』を、第3回仙台短編文学賞の大賞に推していただきました。仙台在住の佐伯一麦さんや山形出身の阿部和重さんにも作品をみていただいたことがあります。運よく錚々たる方々との出会いに恵まれたことが、ここまでやってくる力になっています」
なるほどこうしてみると、「現代東北文学」の担い手の層は厚く、東北とは文学がしっかり根づいている土地なのだと改めて感じさせる。東北で書く作家たちには、なんらか作品上の特長はあるものだろうか。
「東北って広いんですよね。山や海が壮大で田畑も多く、とにかくスケールが大きい。どこか荒涼とした風景が拓けているからこそ、そこに想像力で何らかの物語を打ち立てたくなるところはあるんじゃないでしょうか。想像力を掻き立てられる土地柄であることはまちがいないと感じています」