つねに文学の近くにいるために、書店勤めと小説家という二足の草鞋を履き続けているのだろうか。
「まずは単純に生活のために仕事をしているというだけですが、書店を働く場として選んだのは、たしかに好きなものにいつもさわっていたいという思いからですね。書店員としての楽しい瞬間ですか? 本が届いて荷分けするため段ボール箱を開けるときでしょうか。中身はわかっているのに、『ああこの新刊がはいってる!』などと気分が浮き立ちます」
書店員として「いい作品を地道に掘り起こし、一つひとつ届けたい」
書店での現在の担当は、雑誌売場。雑誌はジャンルを問わず休刊続きだし、街の書店はネット書店や電子書籍に押されて低迷中と聞く。書店員の目から見て、回復の手立ては?
「見通しが苦しいのはたしかです。現場としてはひたすら踏ん張るしかない。知られていないから売れていないだけで、ちゃんとアピールすれば手にとってもらえる本もあるんですよね。そうしたものを地道に掘り起こし、一つひとつ届ける作業を続けるのみです。
人が物語や情報を求める熱のようなものは、時代を問わず不変なはずだと思います。なので需要を掘り起こすために、創作者としては誠実に書いていきたいですし、本屋としては、できるだけ興味を持ってもらえるような売場をつくっていきたいです」
佐藤さんは受賞決定の翌週月曜日から、書店に出ていつも通りに勤める予定だ。そこには芥川賞受賞の話題作として、自身の著書が置いてある。みずから精力的に売っていくことになるだろうか。
「はい、いったん売場に並べば、自分の作品も商材のひとつ。こんなのもありますよ、いまなら新鮮ですよと、一書店員としてお薦めしていきたいと思います」
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