近年、発達障害への知識や理解が広まり、関連する書籍が数多く出版されている。しかし、発達障害者の性行動について詳しく掘りさげた本はほとんど見当たらない。性の問題は非常に切実なはずなのに、「障害者と性」はタブー視されている。

 ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)を併発した文学研究者・横道誠氏は、発達障害者の性行動を深く知るために、当事者8名にインタビューを実施。その証言をまとめた書籍『ひとつにならない 発達障害者がセックスについて語ること』(イースト・プレス)を今年1月13日に上梓した。

 横道氏は同書の中で「読者のみなさんにとって、いささか不愉快に感じられる証言も紛れこんでいるかもしれないから、フラッシュバックに心配があるかたは、注意してほしい。彼ら彼女らの行動には、ときに一般常識、倫理、法律を逸脱している面がある」と前置きしたうえで、「彼ら彼女らは、しばしば不当な被害や暴力の被害者でもある。みな『サバイバー』なのだ。同じような苦しい人生を体験したことで、命を絶ってしまった人も無数にいる。その意味で本書はひとつの鎮魂歌でもあることを理解していただきたい」と出版の意図を説明している。

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 ここでは、そんな同書から一部を抜粋。注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症、双極性障害Ⅱ型(鬱状態と軽躁状態を反復する精神疾患)、自己愛性パーソナリティ障害(誇大的に振るまい、賞賛への欲求が強い人格を呈する精神疾患)疑いと診断されている41歳男性、「青さん」の体験談を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く) 

写真はイメージです ©AFLO

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マセた坊やは性欲旺盛な中学生になる

 青さんが恋愛に目覚めた時期は早かった。「幼稚園のときです。まだ年長さんなのに彼女がいて。廊下の端から相手の名前を呼びあって、ダーっと走りあって、廊下の真ん中でしっかり抱きあったりしました。マセてたんです」。

 小学生のときは「普通でしたね」と若干の皮肉をこめて回顧する。「ADHD特有の人懐っこさがうまく働いてました。おとなびているから、賢い坊やとして愛されて。子どもなりに気を遣ってた、とかではなくて天真爛漫で物怖じしなかった。商店街で店をやってるおとなたちとすぐに仲良くなってかわいがってもらいました。母は気を遣って、その商店街の店でしか買い物ができない、と言ってました」。