相手が喜ぶのを見て、自分が興奮するタイプ
私は青さんに何か気が利いた言葉をかけようかと思ったのだけれど、自閉スペクトラム症者なので、実際にはそんな自然なコミュニケーションを交わすことができなかった。頭ではわかっているのに、体が動かない。これが自閉スペクトラム症に指摘される「コミュニケーションの障害」の一形態だ。
ところで性交渉そのものの満足感は高かったのだろうか。「すごく気持ち良かったです」と青さんは断言する。私は運動神経が悪く、性交がぎこちないから、運動能力の高い彼とは対照的なのかもしれない。だが、自閉スペクトラム症があると定型発達者に一方的な印象を与える当事者が多い。そのような悩みはなかったのだろうか。
青さんは答える。「僕は相手が喜ぶのを見て、自分が興奮するタイプなんです。独りよがりなことができなくて。極端なくらいサービスする」。何か特殊な性交経験はあったかと尋ねると「屋外でやったりしましたね。青姦です。好んでではないけど。あえて」。
記憶の海が私を深みへと沈めてゆく。私も初めて恋人ができたときには、相手に対する愛情と衝動が抑えられなくて、よく夜の闇にまぎれて野外で性交におよんだものだ。そしてその衝動の抑えがたさを相手に対する「愛情の深さ」だと錯覚していた。実際には、私より1歳年上だったその女性は、その時期の私の挙動にとても抵抗を覚えながら、嫌われたくなくて同意していた、とのちに打ちあけてくれたのだが。
「みんなに好かれたいって思いが強かった」
青さんは「いわゆるヤリチン、ヤリマンには発達障害者が多いと思うんです」と語る。「発達障害があると、依存症的ですから。そして周りに凹まされる経験が多いから、自己承認欲求が強い。オレってモテるだろっていうのを確認できるのが快感で、遊んでたって感じですね」。
しかし、なぜ「イケメン」の青さんを、彼の自己承認欲求は駆りたてていたのだろうか。自己分析を求めると、「理由は父です」と答えてくれた。「父は元プロ野球選手としてテレビにも出るような有名人。父親の威光に惹かれて近づいてくる人もいる。だから、自分を見て! 自分を! という思いが強かったんです」。
また自閉スペクトラム症と注意欠如・多動症につきまとうコミュニケーションの問題も関係していたと語る。「人気者のはずなのに、気持ち悪いと言われることも多かった。空気を読まない。余計なことを言う。仲間はずれになる。みんなに好かれたいって思いが強かったんです」。そのように聞いて、私は「やはりこの人は私と同じ『人種』なんだな」と感慨に耽るのだった。