中学生のころまで「ぽっちゃりしてた」と語る。だが背が伸びると引きしまった印象が生まれた。そうなって経験したのが摂食障害。「イケてると気がついてからは、アイデンティティが見た目ですから。見た目しかないんだって思いすぎちゃって。太ったら、食べても吐いてました」。ルッキズムに悩む女性たちの心理を、青さんも知っているわけだ。
私は「イケメン」として生きた経験がないため、自分の周りに「自分よりイケてる」と感じる相手がいるときの感情を知りたかった。彼らに対する嫉妬心に苦しむことはないのだろうか。
しかし青さんはいかにもモテていた人らしく、余裕たっぷりに答える。「ライバル意識は湧かないですね。女子が自分のところに全員来るとは思ってはいませんから。レストランみたいもんです。中華が好きな人も、イタリアンが好きな人もいる。誰かは僕のところに来るって割りきってました」。
ちゃんとつきあったのは3年間で5人、セックスした相手は…
高校時代について「多動が爆発して、行動範囲が広がりました」と話す青さん。女子校の文化祭に行って、ナンパする。高校生なのに合コンをして、高校1年生のときに童貞を喪失した。デートでカラオケに行って、尾崎豊を歌う。現在では考えられないことだが、当時は世間がアルコールに甘かったため、店内で飲酒もした。店側が未成年に配慮しなかったのだ。
派手な男女交際になった。「つきあっては別れる。ちゃんとつきあったのは3年間で5人くらい。セックスした相手は20人くらい。友だちんちで飲んでて、男ふたり女ふたりでやるとか。ジャンケンで順番を決める」。私は息を飲んでしまった。私には未知の世界だから、「村上春樹の『ノルウェイの森』みたいですね」と平凡なコメントしかできなかった。
おそるおそる「青さんのほうが捨てられたことはなかったんですか」と尋ねてみた。一瞬ためらったあとに口を開く。「ありますね。何度も。『心が病んでるね、重い』って言われて。ドライなやつかと思ったのに、ジメジメしてる。僕って、そういう感じですよね」。私は青さんのこういう自信なさげなところが好きだ。私も大学教員として、晴れがましいといえそうな職業についているのに、自尊心が低い。その私との同質性を「モテ度」では大いに異なる青さんに感じてやまないのだ。