戦争の空気が世界を覆う昨今、「見捨てられた国」と呼ばれるソマリアで紛争の解決を目指して活動する日本人がいる。永井陽右さん(31)は早稲田大学の学生だった頃からアフリカに渡り、すでに10年の活動歴がある。なぜ日本人の若者にギャングやテロリストたちが心を開いたのか。その特異な理由とは――。
2月12日には、「情熱大陸」にも登場する永井さん自身が、ギャングやテロリストの更生について語ったロングインタビューを再公開する。(初出:2022年6月20日。肩書・年齢は当時のまま)
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ソマリアやイエメンなどでテロリストを投降させ、更生を促すNPO法人「アクセプト・インターナショナル」代表の永井陽右さん(30)。
早稲田大学在学中の2011年、大学1年次にNPOの前身である「日本ソマリア青年機構」を設立。ケニアにいるソマリア人のギャングたちの懐に入り込み、更生支援を進めてきた。
1つのギャングを“壊滅”に追い込む成果を挙げた後、次に目指したのはテロリストを減らすというソマリア紛争の根本的な解決への取り組みだった――。(全2回の2回目/前編を読む)
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テロ組織からの投降兵と逮捕者を対象に
「ギャングの更生支援で一定の成果は出せましたが、そもそも根本的な“悪”が何かといえば、紛争です。特に和平合意を結べそうにない、いわゆるテロ組織との闘いです。
そこで次に目をつけたのが、テロ組織からの投降兵と逮捕者でした。現地政府に加え、軍やシークレットサービスなどの治安機関などとも連携し、彼らを説得して自発的に投降してもらい、その後にリハビリテーションプログラムを受けてもらうわけです。逮捕者は刑務所内でのプログラムとなります。
特別恩赦やリハビリテーションプログラムの内容、投降者の声、連絡先などを記したリーフレットを戦闘の最前線の地域で配布したり、テロ組織のある村の長老に住民を集めてもらって、説明会や意見交換会を開き、投降のチャンスとその方法を周知しています」
誓約書と引き換えに渡す「社会復帰準備金」と「修了証」
大切なのはカウンセリング、職業訓練、基礎教育などのリハビリテーションプログラムの実施後は、投降兵でも逮捕者でも、最低1年間は面倒をみることだ。
プログラムの修了時には「これからは若者として胸を張って頑張ろう」「学んだことを活かそう」「困ったら一人で考えず電話してくれ」といった内容の誓約書を書いてもらい、それと引き換えに社会復帰準備金としての合計500ドルと額縁に入れた修了証を渡す。中には感激して終了証を自宅に飾る人もいるのだという。
永井さんらがソマリア内部で活動を本格的に開始したのは2016年。これまでに243人の投降を実現させた。他の紛争国であるイエメンなども含めると、直接受け入れた投降兵と逮捕者の数は440人にも上る。間接的に関わっている活動まで含めれば、その数はもっと多い。団体の平均年齢は20代後半と若く、人手も予算も常に足りていないが「必要だが、誰もやりたがらないことをやるのが我々である」という自負で突き進んできた。
ただ、支援が進む一方で、現地の状況はまだまだ簡単なものではないようだ。