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「低コストのおいしいビジネス」都市開発の裏で暗躍する“砂マフィア”の実態

『砂戦争 知られざる資源争奪戦』より

2020/11/10

genre : 読書, 社会, 国際

 ビル、マンション、道路、埋め立て地、ダム、地下鉄、地下街……私たちの暮らしはコンクリートに囲まれているといっても過言ではない。そんなコンクリートの7割は“砂”からつくられている。私たちはまさに「砂上の楼閣」に暮らしているといえるだろう。都市を開発するには砂という資源が必要不可欠である。

 しかし、“砂”は自然の資源。当然のごとく供給には限界がある。「砂漠にある大量の砂を使えば?」と思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、砂漠の砂は粒度が細かすぎてコンクリートとしての利用が不可能なのだ。

 そうした背景のなか、都市開発が進む世界中のさまざまな地域で、限られた資源である“砂”を巡った過酷な争いが始まっている。ここでは環境ジャーナリストとして活躍する石弘之氏による著書『砂戦争 知られざる資源争奪戦』より、その実情を引用し、紹介する。

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サルデーニャ島の砂泥棒

 イタリアの人気リゾートのサルデーニャ島で観光を楽しんだ40代のフランス人カップルが、国に戻るために2019年8月にフェリーに乗り込もうとしたところ、警察に逮捕された。容疑はビーチの砂泥棒。持ち出そうとした14本のペットボトルが押収された。中身は計約40キロの白砂だった。

 サルデーニャ島は、アクアマリンの海と点在する白い砂浜で有名だ。だが、地元当局は毎年数トンも減っていく砂の補給に、頭を悩ませていた。そこで、2017年に法律を制定して砂を「公共財」として、島外への持ち出しを禁止した。

 結局、このカップルは窃盗罪を認め、サルデーニャ島サッサリの裁判所で3000ユーロ(約38万円)の罰金がいいわたされた。この事件の前にも、イギリスからきた観光客がビーチの砂を盗んだとして、1000ユーロの罰金を科された。

©iStock.com

 日本でも砂浜の砂やサンゴや貝殻サンゴは「国有財産」で、持ち帰りは禁止されている。とくに、沖縄県では漁業調整規則で原形をとどめているサンゴを採ることは厳禁だ。違反した場合は最高3ヵ月以下の懲役か、200万円以下の罰金に処せられる。

 世界各国は急に砂浜の砂まで「国有財産」と言い出した。旅の思い出に砂を持ち帰ってビン詰にして飾る人は多いだろう。だが、国によっては犯罪になるのでご用心。

砂を盗る“マフィア”

 問題はこうしたささやかな「犯罪」だけでなく、砂マフィアによる大規模な砂泥棒が世界的に横行していることだ。国連環境計画(UNEP)は世界中で毎年採掘される470億~590億トンの砂の総量のうち、合法的に取引されているのは、統計からみて150億トンほどにすぎないと推定している。イギリス・アストン大学のロバート・マシューズは、ヤミ市場では年間1000億ドル規模の金が動いているとみている。

 UNEPの報告書によると、違法な砂の採掘や取引は、マレーシア、カンボジア、メキシコ、カーボベルデ、ケニアなど、約70カ国に広がっている。このうち、インド、インドネシア、ナイジェリア、イタリアなど少なくとも12カ国では、「砂マフィア」と称される強力な犯罪組織が砂の採掘や売買に暗躍している。