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「低コストのおいしいビジネス」都市開発の裏で暗躍する“砂マフィア”の実態

『砂戦争 知られざる資源争奪戦』より

2020/11/10

genre : 読書, 社会, 国際

都市開発に必要不可欠な“砂”

 現在では、インドの経済成長を支えるビジネスの中心地であり、アジア有数の金融センターだ。新興経済国のBRICS5カ国の一員でもある。それを象徴する200メートル以上の高層ビルだけでも、12本が林立する。近代的なビル街の向こうには巨大なスラム街が広がり、昔の街の姿をとどめている。

 海外の大手資本は現地資本と組んで、外観や内装は欧米と遜色(そんしょく)のないハイパーマートやショッピングモールを国内各地に建設している。中間層や所得が増えてきた新中間層がターゲットであり、食料品、衣料品、日用雑貨、電化製品などの種類も豊富だ。

 そして、年間1000本以上の映画が制作される「ボリウッド」として、世界最大の映画産業の街でもある。

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 そのインドで毎年使用される建設用骨材の量は、2000年から2018年にかけて3倍になり、2020年には14億3000万トンになると政府は推定している。ビル、高速道路、港湾、空港、ダム、鉄道などのインフラの建設に使われる。とくに、毎年数千万人が農村から都市に移住し、新たな住宅やオフィスの需要が生まれ砂の消費量を押し上げている。

砂マフィアの暗躍

 ジュネーブに本部を置く組織犯罪の専門家組織「組織犯罪防止国際イニシアティブ」がまとめた「インドの砂マフィア」(2019年)の報告書は、世界で3位に入る巨大な建設市場であるインド社会に、深く浸透する砂マフィアの実態をえぐり出したものだ。

©iStock.com

 インドで「砂のマフィア」という言葉が使われるとき、本物のギャング以外にも、違法な砂採掘から利益を得ている出資者、土木建設業者、採掘労働者、運搬車両の運転手なども含まれる。さらに、これらの関係者から賄賂を受け取る政治家、警察、中央や自治体の役人も一味として受け止められている。

 インドでは2012年の高等裁判所判決で、中央政府が採掘の量や手段、採掘場所に規制をかけ、許可を得た業者のみに採掘権を与えることになった。許可なしに砂を採掘した場合の罰則は、懲役2年以下、または2万5000ルピー(約3万5000円)以下の罰金、あるいはその両方だ。

 大都市では急激な人口流入で空前の住宅ブームに支えられた建設ラッシュが起き、建設業の市場規模は年間約1800億ドルにもなる。建設業には3500万人以上が雇用され、インド経済計画委員会は、建設業は国のGDPのほぼ9%を占めるとみている。今や中国に次ぐ砂の大消費国に成長した。